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おはようございます。

それでは本日も頑張りましょう♪

 その統主である白狼が森の闇へと消えた後も、暫くは緊張からか村人の息遣いさえ聞こえないほど静寂が包んでいた。誰も動こうとしないこの状況を打破したのはゴン爺の言葉である。



「もう大丈夫じゃぞ。安心するんじゃ」


 ゴン爺の声に、言葉にようやくヒト達は安心したのかゆっくりではあるがこの場所から離れそれぞれの仕事へと戻って行く。まだ時間帯は昼間な為、まだ農作業や建築作業に勤しむ時間である。

 俺は狼に狙われていた家の方に視線を向けると、ドアの前で猫人の女性がへたり込んでいた。その顔色はまだ青みがあるが、表情は徐々にだが強張りを失いつつあるように感じる。土を踏みしめる音を鳴らしながらその女性に近づくと、ややゆっくりとした動作で女性は顔を上に上げた。極度の緊張下にあったのだろう、その体は少しだけ震えている。


「大丈夫か」


 手を差し出すと、一瞬体をびくつかせたがゆっくりと手を握ってくる。猫人特有の掌にある肉球の感触が、とてつもなく心地良い。それに酔いしれている場合ではないと、すぐに意識を現実に戻した俺は女性を一気に引っ張り上げて、起き上がらせる。もちろん、倒れないように空いている左手を女性の腰に回すことは忘れてはいない。


「あ、ああ。ありがとう」


 女性がしっかり立っている事を確認し手を離した俺は、振り向いてゴン爺に声をかけた。ゴン爺によればこの女性が農場主のコネットで、迷子を発見した人物である。厚手のコットン地のワンピースは足首まで伸びるロングスカート、色はブラウン系で華やかとは遠い。

 迷子の事を確認しに来たことを告げると、コネットは家の中へと招きいれてくれた。室内は暖炉やキッチンなどがあり、特にキッチンはそれなりに大きい。テーブルは十人は座れるくらいの大きさがあるため、農場で働く人たちがここで一同にご飯を食べているのだと容易に想像させた。


「こっちだよ」


 室内の奥に有る階段から二階に上がると、迷子を寝かせている部屋のドアの前で立ち止まった。コネットは控えめにノックするも中からの応答は無い。再びコネットがノックするが反応する気配が感じられないため、コネットはゆっくりドアノブを回してドアを押す。ギギ、と蝶番が音を零しながらゆっくりと開き、室内の様子が明らかになっていく。正面には窓が一つ、その左側にベット右側に化粧台の様な鏡突きのテーブルが備えられている。他にはクローゼットなど必要なものは一通りそろっている。

 素早く室内を見回してベットに視線を定める。少しだけ掛けられている布団が盛り上がり、小さいが規則正しく布団が上下に動いている。狼達と緊迫した状況は過ぎたとはいえ、森への不可侵の時期に入り込み迷子になったヒトにお仕置きしようと、いたずら心に少しだけ火が付いていた俺は布団を掴み捲る。構わず捲った俺はこの後、後悔することになった。ベットで寝ていた人物は、服を着ておらず胸と腰の部分には光沢の有る表面の生地を使った下着のみの――、


「お、女?」

「だからさっきから言ってるじゃないか!女の子だって」


 少しだけ言葉に強みがかったコネットの声を聞きながら、急いで捲くった布団を戻そうとした所で最悪の事態が起こる。布団の中で眠る下着姿の女性と目がばっちりと絡み合う。赤いウェーブの掛かったショートヘアに、くりっとした大きな緑色の目。高く美しく鼻筋の通った顔に、薄ピンク色のぷっくりとした唇。顔の幼さから言って女性というか少女だなと冷静に脳内で考える俺を、その少女は目を大きく見開いて数回ぱちくりと瞬きを繰り返す。お互いというかこの室内に居るコネットやゴン爺ですら言葉を発せず、無言の時間が数秒続く。そして――


「いやあああ!変態、スケベ。誰よあんた!服まで脱がして」


 劈くような凶器にも等しい叫び声。恐らく村中、いや先程までいたアンブロウプら狼達、あるいは森に生息しているヒト々にまで聞こえているだろうと思いながら俺は耳を塞ぐ。布団をかき集めながらベットの壁際までずり下がると、近くの化粧台の椅子に掛けられている服を手に取り、何か文句を垂れながら布団の中でもそもそと動いている。

 なんだか面倒くさくなり、心の中で交代、と呟きながらコネットに目を配るとやれやれといった表情で俺の変わりにベットの方へと寄っていく。腿辺りに、ぽんと優しく手を伸ばしてくれたゴン爺の優しさについ涙腺が緩む。


「ごめんね、驚いたよね。まったく男どもはほんとに――」

「ぎゃー、ね、猫が喋ってる!化け物ー!」


 そう叫んだ少女はコネットに布団を投げつけると、その隙を突いて布団から飛び出す。俺とゴン爺を押しのけて部屋を吹き抜ける風の如くである。呆然と少女が出て行ったドアの方を見ながらあっけに取られていると、外からは「ぎゃー、牛が!馬がー!」、などと悲鳴の様な叫びが聞こえてくる。がっくり肩を起こしていると、お前が捕まえて来い、といわんばかりの視線がコネットと足元のゴン爺から俺の体を突き刺してくる。

 少女が落ち着いたのは、それから三〇分ほど経った後であった。



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