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4回目の投稿です。


 多少強引にゴン爺の移動手段である巨鷲の足に掴まれて、空の旅を敢行するのも案外悪くないものである。実際日常で空を飛ぶのは、翼の無い生物には不可能なわけで高い所から落ちるのは飛行ではなくただの落下。全身から力を抜き、だらりとしたまま眼下の大地を見下ろすのも悪くは無い。

 緑色の丘陵ある草原にやや蛇行気味に引かれる土色の線。多方向から伸びるその線は、やがてぶつかりまた分かれて行く。

 ここから北は農場、南は――などと思いながら、すでにファルティバティールの街を西に飛び立ち十分程たったであろうか。眼下には北西から南東へ緩やかな曲線を描いて流れる川が見えてくる。北西にあるのはまだ上の方が白い化粧をした山から続く川、これを越えればコルの村はすぐ見えてくる。

 コルの村は他の街まで伸びる街道がある所以外、全て森に囲まれた村である。村と森までは草原が広がり、農場や畑を構えられる程距離はある。コル村の歴史はそれほど長いわけではない。昔は森の外で暮らすヒトと森の中で暮らすヒトは絶えず争っており、特に森の中で暮らす獣族とは血の争いが絶え間なかった。それに変化があったのはグロノスが統主になった時であった。現在コル村の当たりの森を統べる獣族の統主と会合を儲け、今の不可侵の決まりが出来たのである。そしてグロノスと獣族の統主の知人であるコル爺がここに村を開き今に至る。


「さてそろそろじゃな。またうまい巨魚でもとりに行こう」


 ゴン爺のその言葉に反応するように一鳴きし、巨鷲は村に向かって急降下を始めた。急に上に皮膚が引っ張られた為、俺は思わず悲鳴の様な声を漏らした。


「うわあああ」


 ぐんぐんと近づく村に建物に地面。街道に面された村の入り口とは反対側に、輪の様な人だかりが目に入る。その時ふいに今までお腹辺りに感じてた圧力が急に抜ける。先程まで掴んでいた黄色い指はなく、ようやく鳥の足から解放されたとともに自分の状況を理解した。

 落ちている、そう感じた俺は咄嗟に体を動かしなんとか地面に足を向ける体制を取る。着地と同時に全身で衝撃を和らげるも、完璧に着地とはいかずこけてしまった。そしてその俺の上にゴン爺が見事着地する。俺というクッションによりゴン爺には怪我一つ無い、もちろん俺もないというのを付け加えておこう。


「いやぁ、すまんのう」

「いいから降りてくださいよ」


 呑気に笑いながら降りるゴン爺を確認してから立ち上がると、目の前には幾重にもなったヒトの壁が目に入る。ヒトの声に獣の唸り声も混じっていた。いそいそと小走り気味に走りると、この壁の向こうでは獣とヒトが対峙しているように見える。このヒト集りを押しのけていくとようやく事態を確認する事ができた。

 ヒト集まりを牽制するように一匹の狼がこちらを睨み付けている。大きさは二メートル近くはありそうな程大きい。負けじと村で飼われている犬が吠えるも、体格的には一回りほど狼より小さい為狼は脅威を感じて居ないらしく相手にしていない。

 この世界には素力ソースと呼ばれる力が存在しており、それが大地から植物そして生物すべてがこの素力を宿している。その為植物や食物が大きく育ち獣達もその影響での体格が大きい。森や山には特にこの力が強いとされ、神聖な場所と考えるヒトも多い。勇者達がこの世界にやってきて驚くのは、その植物や生物の大きさに素力ソースの存在である。基本的に人の大きさはどちらの世界でも変わらない。


「はいはい、相談所ハローワーカー職員ですよー」


 あえて注目を浴びるように、パンパンと手を鳴らしながらヒト集かりの前に一歩踏み出す。睨み付ける狼の向こう側にはもう二匹の狼と、その向こうにある民家の扉の前に人族の大人の男女が三人立ちはだかっている。女性は両手を一杯に広げて体をドアへと押し付ける。その前に立つ男二人は三叉のピッチフォークを手にしている。


「えーと」


 俺の存在に気づいた奥の二匹も顔だけこちらに向け威嚇する。それと同時に相手の様子や能力を観察しているのだろう。気にせずに家の前に立つ男女の所へ歩みを進めると、手前の一匹がこちらに向けて唸り声を発する。むき出しになる牙の間から涎がたれ、四肢の先に力が徐々にこめられていく。そろそろ飛びかかってくるだろうと予想した俺は、剣帯に吊るしている鞘をはずすと柄に右手を添える。


「グワァン」


 狼の気合とも言える鳴き声に反応し、柄を握った右手をそのまま上に上げる。鞘ごと持ち上げた剣で狼の突撃を受け止めそのまま左足を狼の方へ踏み込み、鞘越しに狼へ当て身を入れて押し返す。押し返された狼はそのまま空中で回転し、難なく着地を決めた。その事で残りの二匹の怒りを買ったのか、家の方からこちらへと向き直ると左右並んでいる狼の右の狼が掛けだす。どの生物も動き出す時には特有の前動作があり、前足の動きを見て飛びあがると感じた俺は、右手に持つ剣を今度は体の正面へと移動し鞘の腹を相手に向ける。ぐっと鞘に当たった感覚を感じた直後に右へと払いのける。

 三方へ分かれた狼は、正面に居る狼が攻撃を仕掛けると同時に息を合わせるように動き出す。

 その攻撃を鞘で払いのけつつ、次の回避のために体を横にスライドさせ最小限の動きで連続攻撃を回避する。やがて三匹を同じ方向へ弾くと、その中の一匹が鋭い爪を出し体を踏ん張らせる。大きく息を吸い込む動作に入る。


「みな、離れるのじゃ」


 ゴン爺のその声を聞き集まっていたヒトは、周りから離れていく。直後大きく吸い込んだ息を狼が咆哮と共に吐き出す。咆哮と共に生み出される衝撃が一直線に俺に対し向かってくる。剣を前に出しその後ろで体を身構えるも、風圧と衝撃で後方へと吹き飛ばされ地面の上を転がり滑る。

 獣族の中で狼族が得意とする素力ソースを使った攻撃、一般的に咆哮撃ブラストと呼ばれるそれは素力をこめた咆哮で衝撃波を起こすもの。威力によっては踏ん張れば耐えられる事もあるため、踏ん張ってみたが案の定吹き飛ばされてしまった。


 素力は誰もが秘めている力であるが、使えるかどうかは才能による。この三匹の中で少なくともこいつは才能がある事がこれで判明した。素力はヒトによって総量と一日に使用できる量が異なり、双方とも大きい者がやがて統主になれる資格がある。どんなに総量が多くても使えなければ意味はないし、どんなに一日の使用量が多くても総量が少なければすぐに枯渇する。そのヒトが持つ総量は、減る事はあっても例外を除いて回復する事はない。

 草の上に仰向けになった俺は空を見上げながら、自らに向けて失笑する。


「あちゃ~、踏ん張りが浅かったか」


 ゆっくりと体を起こして服に付いた草や土を払い落とす。対峙する三匹の内先程とは別の一匹が大きく息を吸い込み始める。四肢をピンと踏ん張り鋭い爪を地面に食い込ませる。

 やれやれ、と思いながら鞘から剣が抜けないようにロックしているベルトをはずす。少しだけ鞘から引き抜き感触を確かめる。左足を引き上体を左へとゆっくり捻る。深く息を吐き全身から無駄な力を抜き腰を少し落とす。

 咆哮と共に生み出された衝撃波が、一目散に土を削り煙を巻き上げながら向かってくる。衝撃波が間合いの手前に来たタイミングで左足を前へ踏み込み横一閃に剣を放つ。刀身とそこに生まれた剣風が咆哮撃のそれとぶつかり、衝撃波をただの強風へと変え体をすり抜けて行く。

 すぐに鞘へ納めて狼の様子を伺う。咆哮撃を無効にされた事に怒りを増したのか、睨み付ける眼光が少しばかり鋭さを増したように感じた。鞘から剣が抜けないようにロックをかけ、狼達の方へと足を進める。三匹がそれぞれ二度ほど鳴き、ゆっくりと俺の方へと歩き出す。今にも飛び掛かりそうな狼達であったが、森の奥から響く声に体を硬直させゆっくりと後ろを振り向く。


「やめんか!」


 しゃがれた様であるがとても威圧のある力強い声、パキパキと小枝を折る音に草葉を揺らす音が徐々に近づいてくる。姿が見えなくとも感じる存在感が、目の前に居る狼達よりも強大な存在だと教えてくる。やがて姿を現したそれは、白く美しく神々しささえ感じる毛並み。対峙していた狼より倍近くあるその巨体。獣族でありながら同時に巨族にも分類されそうなその狼は、金色の瞳を光らせて見下ろしてきた。

お読みいただいてありがとうございます♪

今後も宜しくお願いします♪

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