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オリジナルは意外と書き易いなって感じました。
相談所の建物は、中が木造で外観は石造り。全部で三階からなるこの相談所をでると、長方形に整えられた石を木目上に敷き詰めて舗装した道が広がる。道の脇には花壇や木が設置されており、石造りがほとんどの街の内装を少しだけ彩っていた。
「相変わらず賑やかじゃのぉ」
ゴン爺がそう呟くほどヒトが道を行き来している。お昼時という事もあり夕方の中央通り並みにお昼をとるヒトや、そのヒトを自分の店に引こうとしている店員達で溢れていた。行きかう人々は十人十色の服に店それぞれ独自の制服でそれだけでもゴン爺の目には賑やかに映るのだろう。
一つ目人はその皮膚の性質上寒さや熱さにも強い為、彼ら一つ目人は衣類という物を着ない。目に見えて生殖器も無い為、彼らはとくに恥ずかしいという事は感じていない。それは彼らはもちろんの事、他のヒトも初めて一つ目人を見る人以外にとっては当たり前の事である。
以前どうやって子供を作るのか聞いたのだが、愛くるしい笑顔で濁されてしまった――。
「さ、ゴン爺急ぎましょう」
俺はヒト波にさらわれてしまわない様に、小柄なゴン爺を抱き上げ方に乗せた。いわゆる肩車である。
「イヅル君」
女性の声に呼ばれ相談所の方へ振り返ると、こちらへ飛んでくる物体が一つ。特に驚く事は無く右手でそれを受け取る。
「忘れ物」
受け取った剣を確認し自分の左腰の部分を左手で触る。うっかりして大事な剣を忘れていたようだ。もしかしたら戦闘になるかもしれないのに、愛用のそれを忘れたのでは意味が無い。講習担当を外れる嬉しさですっかり愛用の剣を忘れてしまっていた。俺には見える……泣いている愛用の剣の顔が。
「すまんルミカ」
剣を受けとった右手を左右に振ると、ルミカも同じように右手を振った。もちろん俺とは違い胸元で小さく二度三度往復させただけであるが。
「では行きましょう」
受け取った剣を腰の左側で鞘ごと剣帯に吊るし、落ちないのを確認してから街の入り口へと向かった。都市という事もあり外敵から守るため、高さ五メートルほどの石造りの壁が街を囲っている。その外壁の東西南北にそれぞれ1つ入り口、いわゆる門がが設けられている。街の中央には噴水広場があり、そこから十字に伸びた入り口までの道をク十字通りと呼ばれているその道は、今の時間帯ではヒトがごった返しているのが容易に想像できた。
ゴン爺のコル村はここファルティバティールから西に位置している。その為、街の東クロス通りの東門近くに構えているこの相談所からクロス通りを突っ切り、西門へ向かうのが一番近いのだが恐らく効率が悪い。その為街壁内を一周できる街壁横の道を迂回して西門へと向かった。
「はい到着」
迂回してきた道は案の定ヒトも少なく快適なくらいだ。馬車三台くらいが並列で走れるくらいに広いクロス通りに合流し、道幅と同じ大きさの門を潜り抜ける。昼間の時間帯は常に門は開かれており、夜間帯は門の横にある馬車1台が通れるくらいの門で出入りすることが出来る。しかしそれは緊急時用で、基本は夜間は外部から誰かを内部へ入れる事は無い。
「ええっと、ゴン爺の馬車は」
他の街への移動手段としては、基本的には馬や馬車それに徒歩である。ここら辺は土地が開けており森や山などが無い為、基本的に安全といえる。そのため急ぎ出ない場合は徒歩で買い物がてら出かけるヒトも多い。買い物に関しても、大量に購入しても近隣の町への宅配馬車便があるため徒歩で来てもたいして困りはしない。
もちろん今回のゴン爺の依頼は急を要しているため、馬車で来たのだろうと思っていた俺は門の外を見渡してみたが馬のうの字も見つからない。目に入るのは街から百メートル程伸びる整えられた石畳の道、そしてその道の左右に広がる草原である。今の季節は冬が終わり、ようやく暖かくなり始めた心地よい風が草原を駆け巡っていた。
「あれ?ゴン爺、一体何でここまで?」
ゴン爺はその問いには答えずに、「こっちじゃこっち」と俺を手招きしている。いつの間にか石畳の道を進んでいたゴン爺を追いかけるために走りだした。後を追って走って行くとやがて石畳の道の終点が見える。百メートルとは意外と短いものであると思っていると、ゴン爺は指を口に加え思い切り音高くピーと鳴らした。
どこか鳥の鳴き声のようにも感じられるその音に、重なるように高い音が耳に届く。明らかにゴン爺とは別の所、感覚的には上の方から聞こえるその音を探すように上を見上げると、いつの間にいたのか大きな鳥の影が俺とゴン爺の姿を覆っていく。
「おいおい」
思わずそう呟くほどに大きな鳥は、急降下してきたその体を翼で数回羽ばたき体勢とその速度を調整する。ほぼ真下に居た俺はその羽ばたきで生じる風圧の強さに思わず腕で顔を隠した。十メートルはあるかというその巨体から生み出される迫力ある風貌は、武力の無い旅ビトでは恐怖するであろう。鋭い眼光に嘴は得物を狩る側のそれだ。
「おうおう、ここじゃ」
風圧に飛ばされないよう踏ん張っているゴン爺は、両手を大きく振る。ゴン爺をその目に捉えた怪鳥とも言えるその鳥は、先ほどの音高い声とは程遠い唸るようにグアアと一鳴きした。見た限り大きい鷲だ。
「ゴン爺この鳥は?」
その問いに今爺は柔らかい表情を変えずに答える。
「いったじゃろ?移動手段じゃよ」
「移動手段て……」
思わず呆れてしまったが、確かに緊急でしかも至急な場合にはこれ以上無い移動手段である事は間違いない。などと感心していると頭上からゴン爺の声が降りてくる。見上げるといつの間に乗ったのか、ゴン爺が背中に座っていた。
「さて、それでは行くかの」
その言葉に巨鷲は一回二回と翼を羽ばたかせると、降りてきた時と同じ様に物凄い風圧を生み出しながら体を浮かせる。俺はまだ乗っていないのだが――。
巨鷲は一度鳴くと同時に俺の視界が真横に傾いた。そして腹部に少しだけ圧迫感を感じる。そこには黄色い四本の指が俺を掴み、その指先からは鋭い爪が光っていた。
前にもこんな様な事があったななどと昔を思い出しながら、強引な空の旅へと誘われた。