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2話目です。


 壁に掛けられている円形の時計で時間を確認しながら、午前中の業務が終了した旨を知らせる札をカウンター脇の出っ張りに下げ掛けた。最近は落ち着いてきたのか、以前の様にお昼を取る時間がないほどヒトがごった返すと言う事はなくなった。他のカウンター内の職員達も、大きく伸びをしたり関節を鳴らしながら間抜けな一面を覗かせている。


「さってと」


 食事をする事はこの仕事をしている中で、唯一休まる時間帯である。空腹が思考を支配しているこの状況を、香りたつ食欲をそそる匂いに誘われるままに店に入り、その料理を堪能する。ここファルティバティールは大きい都市なので、店の数はなかなかに多い。価格も高いが食材も一級品の店から、リーズナブルな店に穴場な名店などいろいろだ。

 この室内の入り口脇に掛けられてある街の地図を眺めながら、今週行った店を確認しながらどの店で今日はお昼にしようか迷っていると、徐々に近づいて来る足音が一人。内心この時間に来客は面倒だと思いながら、なんであろうとお昼の為断ろうと決意を決めた目線の先には、自分と同じ人間ではない皮膚質と一つ目の顔で身長は一〇〇センチにも満たないであろうヒトが、小さな歩幅を目一杯交互させてやってくる。その人物に心当たりがある俺は、右手を軽く上げ挨拶をするとそれに気づいた一つ目の人物は表情を少し緩めて同じように右手を上げた。


「おお、君がいる日だったか」

「ここ最近はずっといたよ」


 他愛の無いやりとりだったが、少しばかり急いでいたらしく一つ目の来客は息を切らしていた。一つ目のしたには丸みのある華に横に長い口、その口の周りは白いひげが覆っている。首はなくそのまま顔自体が体に該当するらしく耳のしたから手、顎の下から足がそれぞれ二本ずつ伸びている。この来客は一つ目人の中で年齢はかなり高く、周りからはゴン爺と呼ばれている。一つ目人の顔は愛くるしく、人族と他の種族との交渉役に選ばれたりしており、このゴン爺は知識もあるため各種族の統主との話し合いも彼のおかげで丸く収まった件も多い。


「実は村に迷子が現れたのだよ」

「迷子?」


 迷子、それが何を意味しているのか相談所ハローワーカーで働く者であれば察しがつく。今回の迷子というのは、街で子供が親とはぐれた場合をさす者ではない。


「森から出てきたところを、近くの農場主が見つけてな」

「森から?この時期に」


 森にはヒトの中で獣族が縄張りとして生活している事が多い。そしてその森には少なからず彼らの統主が存在している場合がある。この時期にというのは、ある一定の時期以外の森への進入はしないという不可侵の約束を、彼らの統主とここ一体の領地を統べるグロノスは結んだ。これにより、森に進入しない限り街や街道を歩くヒトを襲う事はなくなった。暗黙のルールとして森に進入した者は、森の中の弱肉強食のルールを適用するというのがある。これにより不用意に森に入ったものが彼らに襲われても、こちらは手出しはしない。


「一体どこのやつだよ」


 さらに今の季節は不可侵の時期であり、神を祭る期間以外の進入は死を意味する。


「詳しくはわからんが、森のヒトらが出てくる場合がある。誰か一緒に来てもらえんだろうか?」


 大きな町や都市には鍛えられた兵士や旅をする者達もいるのだが、ゴン爺の住むコルの村は農場などの多い長閑で小さい村なのでそういう者はいない可能性が高い。いないからこそここへやってきたのだろう。こういう事態にも対処できるように、職員には戦闘の手練てだれも採用している。


 午後のスケジュールは――などと思いながら職員の予定が記されたコルク質の四角いボードを確認する。そこには午後のカウンターの配員や外周り等のプレートが各職員の名前の下に付けられている。そこで自分の場所を確認すると――


「げっ」


 思わず感情を口から漏らした割り当ては講担とプレートが付けられており、講担当とは講習担当の略で外部からこの街へ移住してきたヒトへ街の決まり等を説明する仕事である。ただひたすら話すだけなのだが、一日に何度も同じ事話すのは苦行以外の何者でもない。今居る他の職員もこの話を聞いているため、同じようにスケジュールボードを確認している。幸い本日の戦闘担当は全員タイミング悪く出払っている為、すぐにすぐは返答が難しい所であった。


 しかし――これはチャンスでもある。俺は咄嗟に思考をフル回転させこの結論に至った。その結論とは――


「よし!ゴン爺の頼みだ、俺が行くよ」


 その言葉に顔を明るくさせたゴン爺とは対象に、職員は何を言ってんだお前と言わんばかりの表情を一斉に向けてくる。あまりの視線の痛さに、まぶたに掛かる前髪を左手で払い視線をそらした。


「ダメダメダメ!あんたが抜けると必然的にもう一人減る事に」


 猫耳を生やした濃茶色のショートヘアの女性が、掛けているメガネのレンズをギラリと光らせる。今日の業務のマネージャーである彼女は、お茶をポットから注いでいる青髪の長いストレートの女へと視線を向けた。毛先のカールしたその女性は、俺に向けて掌を向けて指を開く。


「イヅル君……いってらっしゃい」


 俺の名前を呼んだその女性はそう言って手を下げた。再びポットからカップへとお茶を注ぐ動作へ戻る。


「あら、ルミカちゃんが居なくならないならいいわ。スケジュールを変更しておく」


 ここに来た時に職員全員に通達された内容、それは俺が外部への戦闘の依頼を受けた際は必ずルミカをパートナーとして同行するというのがある。戦闘に置いてルミカと組む事で効率アップ、戦闘時間短縮に被害が抑えられるというのが主な理由だ。それだけではないのだが、別に口外しても何もならない事である。


「イヅル君……守ってね」

「はい」


 淡々としたトーンの彼女の言葉は、どの上司よりも怖いと感じる事が多々ある。今回も含まれるが。ここ一体の統主グロノスさえも、ルミカから感じる怖さに比べたらまだマシな気がする。この「守ってね」とう言葉の本当の意味は、俺とルミカの間でしかわからないであろう。


「では行ってきます。ゴン爺、お待たせしました」

「あんたが来てくれるなら心強いのぅ」


 そう言って微笑んだゴン爺は、抱きしめたくなるほど愛らしい表情をしていた。恥も外聞も捨て去って飛びつきたい程だ。


「すまんが、急いで向かって欲しい。外に移動手段は用意してある」

「わかりました」


 先に走り出したゴン爺の後を追って、俺は相談所を出発した。


1話を恐らく何回かに区切る形になると思います。

本当なら2-1とかの方がいいのでしょうけれど、

余計な事考えずにナンバリングしていきます。


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