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一応オリジナルです。

字数とか気にせずのんびりやっていきます。

「ねえ、おばあちゃん。ゆうしゃさまのおはなしきかせて」


 小さい頃の私は、大好きな祖母の話す世界を救った勇者様の話が大好きだった。あの頃の感情を言い表すと、幼いながらに恋をしていたのかもしれない。


「ああ、いいよ。そうだね、あれは今から八十年くらい前――」


 そう言って祖母の弱弱しい手に頭を撫でられながら、話を聞くのがとてもとても楽しみだった。


「おばあちゃんは、会った事あるの?」


 祖母からしたら、恐らくそうとう目をキラキラさせた私が迫ってきて困ったかもしれない。それでもその質問に対しては、いつも見た事無いくらい優しく慈しむような優しい笑みを浮かべて、「ええ」と答えた。それを確かめる術はないけれど、今にして思えば祖母は恋をしていたのかもしれない。心の中でひっそりと、天に召されるその時まで。


 だけど私は自由に恋愛できない運命を受け入れていた。そして勇者たちを送り込んだこの世界とは違う異界、そこの王、魔王に私を差し出すという運命を。私が嫁ぐことで、魔王がこちらの世界に影響を及ぼさないようになればいいのだろう。そもそも魔王がどんなのか、そんな話し合いに応じるかもわからないのに、お城の重鎮たちは自信ありといった顔つきをしていたのを今でも覚えている。


 ◇


「はい、次ぎ」


 今日何度目かの欠伸と同時に、自分のカウンターの対面に並ぶヒトの多さに肩を落としつつ次のヒトを呼ぶ。ヒトと言ってもそれは総称であり、種族はいくつかに分けられている。三本以上の足で歩くヒトは獣族、二足歩行するヒトは人族、体の一部に翼があり空を飛べるヒトは翼族、平屋より高い体のヒトは巨族、そして昆虫系は虫族。大まかにこういった種族で分けられている。


「あ、はい」


 先ほど抜けたヒトの分間隔が空いたカウンターに一歩分近づいたヒトが、一枚の書類をカウンターの上に差し出してきた。声と手の感じから女性だとなんとなく感が働く。その書類を手で広い上げで記載内容に目を通すと、案の定性別は女性を示す記号であった。必要事項は全て埋まっている事を確認し、俺は視線を目の前のヒトに移す。青色の長い髪の毛先が軽くカールしている。服装はノースリーブタイプの淡い緑のワンピースに、カーディガンを羽織っていた。


「確認のため、袖をまくっていただけますか?」


 女性に対して本来であれば失礼に値するが、彼女に対してはしかたがない。なぜなら種族が翼族で、翼があるとすれば背中か腕である。カーディガンまで羽織る事を考えると、背中にあるのでは窮屈と思ったため腕にあるだろうと判断した。


「はい」


 女性の嫌がる風は無く手馴れた様子で、カーディガンの袖を捲くった。俺の予想通り綺麗に翼が折りたたまれている。彼女は書類に記載通りの翼族で女性鳥人というタイプだ。


「ここへはどういった予定ですか?短期に長期、それから――」

「職を探しています」


 俺が言おうと思っていた最後の言葉と同じのを彼女が告げると、カウンター脇の備え付けの棚から冊子等数点を取り出してカウンターへと置いた。


「こちらが資料です。職探しの方はここから右手の階段を上がって、二階へ上がってください。職員が待機していますのでそちらの案内に従ってください」


 規定通りの内容を答えると、彼女は「ありがとう」という言葉と共に笑顔を添えてカウンターから離れて行った。綺麗な女性にそう言われるだけで、こんなにも心に栄養が満たされるんだなと改めて感じつつ次のヒトを呼ぶ。にこにこと笑顔で向けた視線の先には先ほどとは真逆で、強持ての牛の顔に体をした牛人だったため再び俺の心は萎んだ。


 かつては別の世界から勇者と名乗る者達が現れ、この世界に侵略してきた。これに対し各種族の最たる者達である統主が、彼らを撃退して来た。もちろん種族がすべて仲が良好なわけではない。今でも何かのきっかけで覇権を巡る戦いが起こる可能性がある。そしてその覇権を巡る戦いの際、統主同士の激しい力のぶつかり合いにより生じた力場が、別世界に影響を及ぼしその都度勇者がこの世界へ送り込まれるとう形だ。しかし別世界が平和になったのは勇者のおかげではなく、覇権を巡る戦いが終わったからに過ぎない。

 ま、この事実を向こうのやつらが知ったらどんな顔するだろうなんて思ってみたりもするが、それよりも今はこの目の前の行列をなんとかする方に集中するべきだなと思い、てきぱきと業務をこなす。


ここは人族の統主の一人グロンスという人間の領地内で、1,2を争う大都市ファルティバティールの一角にある外部からのヒトをサポートする相談所ハローワーカー。俺はここの職員である。

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