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ショパンとラフマニノフは少年「響希」くんのために花屋さ
んに来ていた。
ショパン「母親にプレゼントする花なら、すみれをおすすめ
するよ。香りがとにかく癒されるし、飾っておくだけで雰囲
気が良くなるし、私は砂糖にまぶして食べたりもしたよ。」
響希「食べたんですか?すみれって食べれるの?」
ラフマニノフ「これこれ、ショパン。食べるなんて可哀想だ
ろう。花だって一生懸命生きているんだからな。」
ショパン「そんなこといったら、コーヒーだって豆から作
る。豆だって立派に生きているんだから人のこと言えないん
じゃないか?コーヒーたくさん飲んでいる君は。」
ラフマニノフ「コーヒー豆と花を一緒にするな。花は飾るた
めにあるんだ。食べるためじゃない。」
響希「あの、なんでいつも言い合いになるの?仲良くしてく
ださい。」
ショパン「そうだそうだ!ラフマはいつも突っかかってくる
からな!冷静な響希くんを見習いなさい。」
アゲハ「あんたたち、私の存在を忘れないでよ。すごい疎外
感だわ。私があなたたちに響希くんを紹介したのよ。響希く
んは2歳の時に全盲になったんだから、可哀想だと思い、私
が幽体離脱して連れてきたんだから。」
ラフマニノフ「響希くんは霊界は初めてかな?」
響希「ええ、とても美しい場所だと思います。目が見えるっ
てこういうことだったんだって忘れてました。憧れの2人に
会えてうれしいです。ラフマニノフの2番とショパンの2番
が特にお気に入りです。こんなロマンティックな曲を作曲し
た人はどんな人なのか興味がありました。」
ショパン「すべて聞いてくれたの?僕の生前の240曲程。
もちろん、ラフマの曲も聞いたんだよね?」
響希「ショパンさんのは舟歌、バラード4番、練習曲「木枯
らし」など約10曲。ラフマニノフさんのは全て聞きまし
た。」
ラフマニノフ「君!さすがだ!ショパンより私の曲の方が魅
力的だから全て聞いてくれたんだろう!」
ショパン「君、僕の全然聞いてないじゃん。10分の1も聞
いてないじゃん。ラフマだけずるい!」
ラフマニノフ「残念だったな!ショパン!私のが優秀なの
だ!響希くんにとっては。」
ショパン「これからは全て聞いてよね!絶対だよ!」
響希「分かりました。ショパンさんのも全て聞きます。ラフ
マニノフさんのピアノ協奏曲2番だけでショパンさんより優
秀な作曲家だということが分かりました。オーケストラの使
い方がうまいですね。ラフマニノフさんは。」
ショパン「ピアノが本当に好きな人には私の曲の方が響くは
ずなんだけど、響くのは名前だけだったのか?」
ラフマニノフ「寒いぞ!ショパン!」
響希「これからはショパンさんのも無理やり聞きます。嫌で
も聞きます。だから、許してください。」
ショパン「音楽はいやいや聞くものではない。もし、自分の
好みに合わず、退屈で嫌になるなら聞かなくていいぞ!私の
曲の良さを知っている人はいくらでもいるからな。」
響希「ショパンさんよりラフマニノフさんのほうがかっこよ
くて好きです。身長が大きく、手も大きく、顔も素敵で、ピ
アノ技術も極めて高く、素晴らしい作曲家ですよね。ショパ
ンさんはほとんどピアノ専門作曲家なので、オーケストレー
ションが使えるラフマニノフさんのほうが作曲家として優れ
ていると思います。」
ラフマニノフ「さすがだ!少年!ショパンも確かにスゴイ
が、私はもっとすごい!」
アゲハ「どう考えたって、ショパンの方が作曲家として優れ
ているでしょ。何、2人も現実から逃げてるのよ!それよ
り、早く、すみれの花でも買って、母親に届けてやりなさ
い!」
響希「この花はショパンに捧げます。すみれが大好きだって
ことだから、すみれの花を。ラフマニノフさんばかり優遇し
てしまい、悪いので。ラフマニノフさんには、バラの花
を!」
ラフマニノフ「私ってバラが似合うのか?」
アゲハ「響希くんって変わった感性してるわね。」
ショパンはすみれを。ラフマニノフにはバラを。
響希くんは憧れの2人の作曲家の顔を見て、興奮した夜を過
ごした。