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第二話 三凶

「というわけで、廃嫡されちゃったんだ」


「は!?いやいやいや、何そんなあっさりしてんのよ!!」


あっさりと廃嫡の事実を言い放ったユキに対して、幼馴染のサクラは驚いてそうツッコんだ。


「大変なことじゃない!!何そんなヘラヘラしてんのよ!!」


「いや、別に公爵になるとかあんまり興味なかったからさ。それに、そういう立場じゃない方が、自由に動けて逆にいいかなと思ってね」


「全くあんたは・・・・・・またそんなことを・・・・・・」


サクラは、はあとため息をつきながらそう言った。


ここはサクラの私室だ。サクラは大商人の娘で、公爵家の娘の部屋とは比ぶべくもないが、なかなかに豪華な感じである。


本来であれば、大商人の娘と公爵家の娘とは話をすることすら出来ないのだが、サクラとユキは幼い頃から仲が良かった。


「さて・・・・・・まあ廃嫡のことは置いといて・・・・・・と」


「置いとかないでよそんな重要なこと・・・・・・」


「サクラさあ・・・・・・とりあえず金貸してくんね?」


ユキがニコニコしながら言ったこのセリフに、サクラは一瞬呆気に取られてから反応した。


「・・・・・・いや何でよ!なんでそうなるのよ!」


「いやー、ちょうど廃嫡もされたことだし、それでなくても金がないんだよね」


「あんた、いっつもそんなこと言って私に金貸せって言ってくるわよね。私のことを都合のいい金づるだとでも思ってるんじゃないの?」


「そんなことはないさ」


ユキはそういうとグッとサクラに顔を近づけた。


「な、何よ・・・・・・!ちょ、近い近い!」


狼狽するサクラの顎にそっと指を這わせると、クイッと自分の方へ顔を向けさせた。いわゆる顎クイである。実はサクラよりユキの方が背が高いのだ。


「ちょ、な、ちょ─────!」


「サクラ、私にはお前が必要なんだ」


「わかったわかったから!貸す!貸すから!!」


サクラは顔を真っ赤にしてユキを押しのけた。サクラはけっこうちょろかった。


「相変わらずちょろいなサクラは・・・・・・」


こうして、サクラに金を借りたユキはその足で、サクラの家を出て街を通りどこかへと向かっていった。


ちなみに、あのあと金を貸す代わりにとサクラに着せ替え人形にされたので、今は服を着替えて清楚系の乙女が着るような白いワンピースを着ていた。


「あいつめ、流石に何度も繰り返すと、そう簡単には金を貸してくれなくなってくるな・・・・・・うう・・・・・・やっぱりいまだにスカートって慣れない・・・・・・」


ユキはスカートを押さえてモジモジする。ユキは中身はともかく見た目がいい。純白のワンピースでキメたユキを街行く人が見惚れていた。


ユキは視線を感じながらも歩いていく。街には色々な人がいる。商人風の男や、セクシーなドレスを着たお姉さん、魔法使いのような格好をした男など本当に色々な人がいる。


その中には、粗末な衣を身に纏った、獣の耳の生えた獣人や、耳の尖ったエルフなど、人と姿が似ているけど人とは少し違った、亜人と言われる種族も存在する。


ユキの住むガーネット帝国では、この亜人は人より劣った存在とされ、奴隷扱いされている。そう、この帝国は奴隷制を肯定しているのである。この帝国は、奴隷制という忌まわしきもののおかげで、ここまで発展したのである。


「オラ!とっとと歩け!」


ユキはその粗末な衣を纏い、鞭打たれ虐げられている亜人たちへ一瞥をくれた。そして、相変わらず淡々とした表情でどこかへと歩み去った。


ユキはそうして、しばらく街の表通りを歩いていたが、やがて表通りから、曲がりくねった路地のようなところに入り、裏通りを通っていって、奥の方、およそ公爵家の令嬢が通る場所ではない、汚い怪しげなところへと入り込んでいった。


しばらく歩いていくと、やがていわゆるスラム街と言われる頽廃した場所の入り口に辿り着いた。ここは、ユキの父親が治めているドリアス公爵領領都のあらゆる『悪』が集まる場所だ。強盗、強姦、殺人、麻薬。などなど、全ての悪徳がここにはある。


この、公爵領領都では表では人々が平和で、幸福な日々を暮らしている一方で、裏では正当な手段ではまともな生活を送ることができなくて、悪の道に染まることを余儀なくされているような者ども、貧困に耐えかねた者や逃亡奴隷がスラム街にひしめいているのである。これは、この帝国の縮図でもある。


さて、そんな街の入り口にユキは立って、早速そこへ入って行こうとすると、ふと横から男の手に妨げられた。


「おいおいおい、お前みたいな女がこんなとこへ何の用だ?」


見ると、いかにもなチンピラ風の男が立っていた。


「ここはお前みてえな嬢ちゃんの来るところじゃあないぜ?それとも何か?ひょっとしてそういう目的で来たのか?」


そういう目的とは、体を売りに来たのかということだ。男はユキを下卑た目で見た。


それを見て、ユキは得心したように言った。


「なるほど、新人か」


「・・・・・・・ああ!?何だてめえ─────!あまり舐めた口聞いてっと売りとばすぞ!?」


チンピラがカチ切れた顔でユキを睨みつけていると、そのチンピラの後ろからそいつの仲間らしき別の男が現れた。


「おーい、何やってんだ?」


「あっ、兄貴!すいません、何か生意気な女が来たんでシメてやろうかと思いまして────」


その言葉が終わるか終わらないのうちに。


「・・・・・・バカ!!てめえバカ!!!」


兄貴と呼ばれた男は走り出すと、最初に出てきたチンピラ風の男の頭を掴んで、


「すいませんでした!!命だけは勘弁してください!!!」


そう言って、ユキに向かって頭を下げさせた。


「ちょ、何すか兄貴!こんな女なんかに────」


当然口答えしようする子分を遮って、兄貴は言い放った。


「バカ!お前、バカ!!この方はなあ────この方はなあ!!ここで一番力ある犯罪組織、秘密結社『割れた柘榴』のトップスリー!『三凶』の1人、ユキ様だ!!」


「・・・・・・は?」


チンピラ風の男は素っ頓狂な声を出し、言われたことに頭が追いついていないような顔で、ユキを見た。


実際、純白のワンピースを着て、手に持つ日本刀の他はただの清楚系少女にしか見えないユキは、ヤバさの片鱗も見えなかった。


そんな者が、そんなヤバそうな者であるとは、にわかには信じられなかった。


「え、いやでも兄貴こんな、殴れば一発で吹っ飛びそうなヤツ────」


「おい言葉を慎め!強さと悪徳が全てのこの場所で、その強さと犯罪でトップに君臨し、この街を実質的に支配してるお方だっつってんだよ!!いいからさっさと頭下げろ!!謝れ!!」


「おい、そこのヤツ新入りか?」


「へ、へい!そうなんすよ、ユキ様。コイツ、まだ入ったばっかでして、この場所のこと何にも知らないもんですから、どうか、命だけは、命だけは取らないでいただけると助かります─────」


「ふーん・・・・・・」


ユキはそう言いながらまじまじとその子分を────正確に言うと、そいつの手をマジマジと見ていた。


「ちょっとさ、コイツの腕押さえててくんない?」


「はい!わかりました!」


「え、ちょ、兄貴?」


言われた通りに、兄貴は子分の腕を押さえた。ユキは、手に持っていた刀をすらりと鞘から抜き放つと────


「えい」


「ぎゃああああああああ!!!」


そいつの腕を切り落とした。


「うああああああ!!俺の!!俺の腕がああああああ!!!」


「よっと。この腕もらってくよー」


「あ、ありがとうございます!命を残して下さって・・・・・・!」


「腕があ!腕があああああああ!!!」


「ああお前、腕だけで済んで良かったな、本当に良かったな・・・・・・!」


ユキは、チンピラから切った腕を眺めながら呟いた。


「これ、お土産になるかなー?」



「入るぞー」


ユキはそう言いながら、待ち合わせ場所の廃墟に入って行った。


「ユキ、遅いではないか。5分前行動という言葉を知らんのか。もっと早く来い」


ユキが入るや否や、ユキにそう言ったのはライト。ライト・ガーデニングという少女で、オレンジ色の髪の毛をショートカットにして、騎士のような鎧をつけている。やや真面目そうな少女だ。


「いや、ごめんごめん。ちょっと色々あってさ」


「あれー?ユキ、今日はなんか女の子っぽい格好してんじゃん。スカートめくっていい?」


こう言ったのはエリー・イエロー。黄色の髪の毛をツインテールに結んだ、一見すると9歳か10歳くらいに見える女の子である。


ただ、光のない目に異様なぐるぐるが浮かんだところは、明らかにヤバい感じがする。


砂糖漬け(時には麻薬漬け)にした人間の目玉を、常に飴玉みたいに舐めしゃぶってるようなヤツなので、中身もちゃんとヤバい。


「よくねーよやめろ」


「えーケチー」


「ケチじゃない。・・・・・・ほいよ、お土産持ってきてやったぞ」


「お土産?」


「ああ。この街の新入りチンピラの腕だ」


「へー、チンピラにしてはなかなかいい腕してんじゃん」


エリーは口に含んでいた目玉を、ぷっと床の上に吐き捨てた。


それを見て、ライトは注意する。


「おい、ちゃんと舐め終わった目玉は紙に包んでゴミ箱に捨てろって言っただろ!」


「はいはーい」


エリーは生返事をすると、腰につけていたポシェットから、そういうことをする時用に持っている瓶入りのバジルソースを取り出すと、それにチンピラの指をつけてぺろぺろ舐め始めた。


「吉良吉影かよ」


「おいユキ。いいからとっとと席につけ。会議を始めるぞ。わざわざ『三凶』が集まったのは、遊ぶためではないんだからな」


ユキは、ライトの言葉に従って席についた。


騎士風の少女、ライト。ヤバめ女子、エリー。そして公爵家令嬢の身でありながら、犯罪組織、秘密結社『割れた柘榴』のトップの1人、ユキ。


この3人が、この『割れた柘榴』のトップの3人、『三凶』と呼ばれる者たちなのである。


「ま、トップ3人っていうか、『割れた柘榴』の構成員はこの3人しかいないんだけどね」


「まあ、でも、3人だけでけっこう色々なことやってきたよな。侯爵、伯爵などなどの貴族や要人の暗殺とか、帝国の宝、『柘榴の宝剣』やその他の魔具を盗み出すとか」


「そうだな・・・・・・」


「多くのことをやってきた。でもそれだけじゃ足りない。私たちの目的は国家転覆─────」


ユキは、テーブルの上で指を組んで言った。


「つまりは、このガーネット帝国を破壊することなんだからな」


そして、続けて言った。


「さあ2人とも、案を出してくれ。次はどんな厄災をこの帝国に齎すか、決めようじゃないか」


廃墟の中で、『三凶』たちの会議は、深みを増していくのであった。

これをこのまま続けるべきか、ボツにするか迷っているところです。よろしければ、何らか意見をおしゃってくだされば嬉しいです

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