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第一話 廃嫡

「目立ちたくないなあ・・・・・・」


ドリアス公爵家の長女、ユキ・ドリアスは黒く艶やかな長い髪を垂らし、血のように深い輝きを持った紅い目を空に向けながら、そう呟いた。・・・・・・血塗れで。


「いや、ほんとに目立ちたくない奴はドラゴン退治なんてしないのよ・・・・・・」


そばで見ていた幼馴染のサクラは、ユキに向かってそうツッコんだ。


「あー、サクラ。いや、別に本気で目立ちたくないって思ってるわけじゃないんだよ。ただ、異世界転生者にとって目立ちたくないは鳴き声みたいなもんだからね。私も一応異世界転生者だから、言っとくことにしてるんだよ」


「何言ってんの・・・・・・?」


サクラは呆れたふうで言いながら、倒れた巨大なドラゴンのそばに、穿いてるズボンも着ているシャツも血塗れにして、手に握る日本刀から血を滴らせながら立っているユキに歩み寄った。


「しかし、またかなりドロドロになってるわね・・・・・・」


「全部ドラゴンの血だ。私は一滴も血を流していない。私は血を流さない。一滴も流すことなく、流させる。それが私の主義だからな」


「はいはい、わかったわよ」


「ふー、こいつを売れば少しは、資金の足しになるかな」


ユキはしゃがみ込み、ドラゴンの死体を見ながらそう呟いた。


ユキ・ドリアス。公爵家の長女として生まれた彼女・・・・・・彼女、彼女はもともと彼だった。


彼、川田勇気は、もともと地球の日本でごく普通の会社員をやっていた。しかし、ある日異世界転生専用機・・・・・・もといトラックに撥ねられて死んでしまった。事故起こしたトラックの運転手も可哀想なところであるが、勇気はもっと可哀想なことに異世界転生した。


これは異世界転生した勇気、現ユキが廃嫡されてからの話を描いたものである。


まずは、どうしてユキが廃嫡されたのかをご覧いただこう。



「ユキ、お前を廃嫡する」


「惜しいですね、お父様。追放するとおっしゃってくれればいい具合になったのに」


「何言ってるんだ・・・・・・・?」


ユキの父親、現ドリアス公爵はユキの謎の発言に困惑した。


ドリアス公爵は自分の執務室にユキを呼び出していた。ユキに対して廃嫡を告げるためだ。ユキはもともと次期公爵になることを予定されていたが、今回、廃嫡され、次期公爵には弟が据えられることになったのである。


現公爵は色々な書類が積まれた執務机に座って、ユキに話しかけた。


「・・・・・・なんだか、あまり驚いていないようだな」


「そんなことはない驚いてますよ、父上。今にも倒れんばかりのショックですよ」


「・・・・・・まあいい。我が公爵家は長らく騎士の長として魔物や、他の国などこの神聖なるガーネット帝国に仇なす者たちと戦い、それを討ち払うことを役目としてきた」


「はい」


「だからお前には、戦闘で役に立つ魔法を習得してほしいと長らく願ってきた────だが、お前は私の期待に反して戦闘では役に立たない水属性魔法ばかりに執してきた────」


水属性魔法。それには弱点がある。


魔力の消費が激しいということが、その弱点としてはまず挙げられる。水属性魔法(これには氷魔法も含まれる)にて使う水は、自然のものを利用する方法と魔力で創り出す方法がある。


自然の物を利用するなら、水場以外は戦えない。しかし魔力で水を創り出して、それを操ったり凍らせたりして戦ったりするということは、その分だけ魔力の消費が激しいということだ。


風属性、土属性魔法なら自然のものを利用して戦える。魔力の消費が少なくて済む。炎属性魔法は、マッチ一本でもあれば、草やら木やら、何らかのものを使って燃え広がせた炎を利用して魔法を撃てば魔力消費も少ない。しかし、水はそういうわけにもいかない。


魔力で創らない水を利用するなら、水場以外は戦えないし、運ぶにしたって、そんな大量の水をわざわざ運んで、魔法に使用するくらいなら、兵の飲み水にした方がいい。


「・・・・・・わかるか。つまりは水属性魔法は戦闘の役には立たんのだ。そんなものをお前は、こちらの静止も聞かずに、磨き上げることに躍起になっている一時の気の迷いだろうと傍観していたが、こちらも我慢の限界なのだ」


「ええ、わかっておりますよ」


「・・・・・・それに、お前には何やら怪しげな秘密結社と繋がりがあるという噂もある。噂はあくまで噂に過ぎない。が、それでも、たとえ噂にしか過ぎないような不確かなものでも、そのような疑惑のあるものを、栄光あるドリアス公爵家の跡取りにするわけにはいかない」


「ええ、そうですね。もちろんわかっておりますよ」


「・・・・・・ほんとに、あっさりしているのだなお前は」


「いえいえ、そんなことはありません。ものすごくショックを受けておりますが、公爵家の人間として無様を晒すわけにもいかないため、意志の力で必死に堪えているだけですよ」


「・・・・・・まあいい。とにかくそういうことだ。これからはそのつもりでいなさい」


滑らかな光沢を持つ、ポニーテールに結った長い黒髪、血のように深い紅目を持つユキは、終始腰につけた刀の柄をいじりながら、にこにこと笑いながら父親の話を聞いていたが、やがて話が終わると部屋を退出した。


残された父親の現公爵は、机の上で手を組みながら呟いた。


「考えていることがわからない、思考が全く読めない・・・・・・我が娘ながら、一体何を考えているんだあいつは・・・・・・」


・・・・・・一方、廃嫡を告げられたユキは、悲しむ素振りや、悔しさを滲ませるような素振りなど全く見えずに、公爵家の屋敷を出ると淡々とした表情でどこかへと歩み去っていった。


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