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第六話

コージの家のお葬式に線香をあげに行った。

近所なので顔見知りだ。

その日はたくさんの親戚や同級生や先生たちが来ており、コージの母であるおばさんと話せるような状態ではなかった。


お母さんは、「噂によると、コージ君、精神的な病気だったんでしょ。最近は髪も青く染めて遅刻ざんまいだったみたいだし、仲良くしてなくてよかったわね。黒歴史になるところだったわ。お母さんはちゃんとした人とお付き合いしてほしいから」といった。


そんな母親を軽蔑の眼差しで一瞥する。精神的な病、見た目や素行で人間性を測らないでほしい。ましてや、この世にいない人を罵るなんて最悪だ。母親の言動こそが黒歴史だ。


彼が生きた時間は黒歴史なんかじゃない。たくさんの思い出を残して、そのまま別な世界に行っただけ。彼は精一杯生きていた。



後日、コージの家に改めて話を伺いに行く。

おばさんは、だいぶやつれて疲れ切っていた。

大切な一人息子を失った辛さがにじみ出る。


「おばさん、コージ君は何か病気だったんですか?」

「いつもありがとう。実は、うちの子、摂食障害だったの」

「摂食障害って……保健の授業で少し習いました。10代の女子に多い病気で痩せても痩せても太ってると思いこんでダイエットする病気だって聞きました」

「多分、きっかけは目の病気だったの。その後、ドカ食いするようになってストレス発散していたのよ。ところが、食べると太るでしょ。それなら、吐けばいい。そんなことが何度も続くと吐きだこができるらしいのよ。食べては吐いて、食べては吐いて。一生分食べたんじゃないかしらね。冷蔵庫はいつもすぐに空になるのよ」

「でも、軽音部でがんばっていたじゃないですか」

「居場所が欲しかったっていってた。本当は運動部をやりたかったみたいだけど、ドクターストップがかかっていたから、仕方ないわね。どうしようもない息子と仲良くしてくれてありがとう」


いつのまにか私の瞳からは涙があふれていた。

そして、おばさんの瞳からも涙があふれていた。


私の瞳に映るのは、彼が網膜剥離になる前の笑顔の遺影。

まだ痩せこけていないときの健康な姿。

彼の瞳に私が映ることはもう二度とない。

人生はリセットできない。


「あんなに昨日まで元気だったのに。どうしでですか? 薬はなかったんですか?」

「基本はカウンセリングや栄養注射なの。死因は栄養失調。この時代に栄養失調で死ぬなんて馬鹿よね」

「彼の体には栄養が足りなかったんだ。だから、髪の毛も……」

「あんなに青に染めたけど、最近はだいぶ髪が薄くなってきていてね。栄養が足りてなかったのよ。突然時計が止まるかのように心臓が止まったの。眠るようにベッドの上でね」

「もっと生きていてほしかった。成長した彼を見ていたかったです」

「10代は病気の進行が早いのよ。栄養注射を拒否すれば、医者も無理にはできないでしょ。しかたないわね」


「私、コージ君のこと、好きでした。ずっと忘れません」

彼の仏壇の前で涙を流しながら私はしばらく彼と無言の対話をした。

もしかしたら、彼の瞳に私が映っているのかもしれないから。

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