第五話
翌日、母親が走ってきた。
「コージ君の家に救急車が停まってるのよ」
たしかに、サイレンの音がうるさく、近所で止まったとは思った。
でも、まさかコージの家の前?
近所の人たちが集合する。
ざわめきどよめく音がする。
部屋着のままでサンダルを履いて外に飛び出た。
運ばれていくのは、コージだった。
目を閉じていて、意識がないのだろうか。
昨日、あんなに元気だったのに。
そんなことがあるのだろうか。
コージの母親が付き添って救急車に乗って行った。
「もしかして、目の手術の後遺症なのかしら」
母親が言う。
昨日言っていた病気のせい?
それで、意識を失ったの?
もしかして、眠っているのだろうか?
全くわからない。
もちろん、彼のスマホに連絡をしても、返信はない。
その晩はほとんど眠ることができなかった。
大切な人が救急車で運ばれた。
そんなことは人生そうそうあるものではない。
翌日学校に行くと、朝のホームルームで担任が静かな口調で丁寧に話を始めた。
「蒼野コージ君ですが、昨日亡くなりました」
教室内がざわつく。
「実は、昨日救急車で運ばれたらしいのですが、既に自分の部屋のベッドで亡くなっていたそうです」
「どういうことですか?」
クラスメイトが聞く。
「彼には持病があったらしくて、眠るようにそのままあの世へ旅立ったと聞きました」
それ以上踏み込む者はいなかった。
この教室で唯一青い髪をした少年はもうここに来ることはない。
あの存在感を放つこともない。
私たちはそのまま何も言えず唖然としていた。
朝のホームルームが終わると、いつも通りの授業が始まる。
どことなく、教室内の雰囲気は澱んでいた。
仲良くしていた派手な女子は涙を流し、仲良くしていた男子も無言になっていた。
別世界にいたクラスメイトたちも、ただ、何も言えず、教科書とノートを見ている。
でも、きっと彼がいないことが普通になって、当たり前になってしまう。
だから、私がコージを忘れないことが一番彼のためになるような気がしていた。
昨日彼とかわした約束を一生忘れない。胸に刻む。