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第四話

ライブの後、3カ月くらいは経っただろうか。

相変わらず私の瞳に映るのはコージだった。

でも、もちろん一方通行の恋。

彼の本当の悩みも今だわからない。

体調が悪そうだけれど、それ以上何も立ち入れない。


帰宅途中珍しく懐かしい声がした。


「よう」


あっちから話しかけてくるのはいつぶりだろうか。


「よく、小さい頃、この河原で遊んだよな」

「そうだね」

急にどうしたのだろう。

笑顔はかわらないけど、顔色は悪い。


「今度またライブするから、来いよ。この前来てくれただろ」

「気づいてたの?」

「もちろん」

意外だ。絶対に気づいていないと思っていた。

私のことなんて、彼の瞳の端っこにも入っていないと思っていた。

コージの瞳にちゃんと映っていたんだね。

「ちょっと最近、つやのあるリップに変えただろ」

「気づいてたの?」

「あたりめーだよ」


コージが小石を河原に投げる。

「ボクシング辞めてさ、無気力になった時期もあったんだ。手術もして大変だった。でも、今音楽でみんなとつながってる」

「私は何も変わってないよ。中学の時から相変わらずだよね」

「それでいいと思う。俺は大切なものは変わらないでほしい派だから。出身の小学校とかこの河原とかこの街とか」


大切なもの……?

受け取り方によっては私のことを大切だと思っているのかな。

話せただけでもうれしいのに。別世界の彼と。


「別世界の人間だなって遠くから眺めてただけだよ。もう、口きいてくれないかと思ってた」

「一時期はヤケになってたけど、最近は新しい趣味も出来たし、落ち着いたよ。俺、実は病気になっちまって、体重が激減したんだ。毛身の毛も最近結構抜けるからヤバイヤバイ。皮膚科でクスリもらったレベル」

「大丈夫なの?」

「治ってる人もいるらしいから大丈夫だと思うけどな。めっちゃ食べてるんだけどな」

「そんなに食べてるのにこの痩せ方? 私なんてちょっと食べただけで太るのに」

「食べても太らない病気らしい」

また小石が水面をステップする。


「俺、お前と幼馴染で良かったって思う。話してるとなんか安心するしさ」

「そーいえば、彼女は?」

「実は、入院先の病院で知り合った人の紹介の女の子でさ。告白されたんだけど、自然消滅。高校違うし、自宅も遠いし、性格もよく知らない。そんな人と一緒いてもつまんないし。接点がなさすぎなんだよな」

「痩せているコージを見ると心が痛い。私にできることがあったら言ってよ」

「んじゃあ、俺のことをずっと忘れないこと。青い空を見たら青い髪の毛を思い出してよ」

「何それ、お別れみたいじゃん」

「別に。ただ、言っただけだよ。もし、進学しても就職しても県外に行っても、ずっと忘れないでほしいってことだよ」

「大丈夫。ずっと忘れないよ」


二人の視線が交じり合う。恋の始まりみたいなふわっとした感じがよぎる。

彼の瞳の中に私がいて、私の瞳の中に彼がいる。

幸せな時間がゆっくり過ぎる。

別世界の人間じゃなかった。

彼は私と同じ時間を生きているんだ。

手と手を重ねて河原で夕陽を浴びる時間は多分――生涯忘れられない時間となるだろう。

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