第三話
翌日、青い髪のコージはギターを持って登校した。エレキギターを購入したらしく軽音部に入部するらしい。
最近は、うちの高校でもメイクが派手な女子とやたらつるむように変わってしまった。
コージの外見が変わっただけで、派手な女子たちは寄ってくるようになったのかもしれない。
誰とでも気さくに話すコージは、男女ともに人気だった。
むしろ、私となんか話すこともなくなっていってしまった。
距離が離れる。
同じ教室にいるはずなのに――別世界の人間。
コージの私に対する扱いは――存在していない人間のように扱われるようになった。
一抹の寂しさが灯る。
ずっと前から知っていたのに、距離を置かれる悲しさ。
他の女友達とばかり仲良くしている姿は辛い。
私はなるべく、自分と気が合う女子と話すように極力気をつけていた。
彼をあまり見つめないようにするために。
手術が失敗したとも聞かないし、視力を失うこともないらしい。
でも、心療内科クリニックというワードがずっと引っかかっていた。
「おまえ、ちょっと抜け毛多いし」
コージは髪を染めたからなのだろうか、脱色したからなのだろうか。
抜け毛が多いと友達に言われている。
昼休みはどこにいるのかわからない。ちゃんと食べている姿も見かけない。
あれ以上痩せたら、痩せる部分なくなっちゃうのに。
「今度ライブしよう」
早速軽音部の仲間とも打ち合わせをしている。
メンバーも集めて中心人物となっているなんて、なんて素晴らしい。
と感心してしまったけれど、ただ、私は見ているだけ。私の瞳に彼はいるのに、彼の瞳には私はいない。
後日、校内ライブの貼り紙が貼ってあった。
友達も誘って、普通を装い、ライブ会場へ行こうと決意する。
校内の一室を使って毎年、定期的に軽音部は校内の生徒たちに発表する機会があるらしい。
ギターをはじめて一か月程度でこんなに上手になるものだろうか。
コージはこの一年であっという間に変わった。
背が伸びて大人っぽくなった。
目の手術をして、人生が変わった。
部活は軽音部に転部した。
彼女ができた。
青い髪に変えた。
コージの瞳に私が映らなくなった。
別の世界の住人かのように距離ができた。
それに比べて、私は何も変わらない。
もっと大人っぽくなりたいけれど、背はのびていない。
相変わらず服装も中学の頃と変わっていないし、メイクもしていない。
友達の雰囲気も変わらない。
中学の延長上でただ息をして生きているだけ。
部活も何も打ち込めるものを持っていない。
ただ、片思いしているだけの高校一年生。
彼と同じ空間にいるのに、生きている密度が違う。
もっと私は自分を変えないといけないのかもしれない。
あまりにも、中学時代と何も変わらない自分に少し苛立つ。
何か私も変わらないと。でも、何を変えたらいいのか全くわからないでいた。
一か月後のライブの時は、コージの体重はだいぶ落ちているように思えた。
元々普通体型だったのがガリ痩せという感じで、更にロックな感じを醸し出す。
女子にも人気があり、黄色い声が飛び交う。
友達と見に行ったのだけれど、ライブ会場は熱気が違う。
空気の温度が全然違う。
何かに青春を注いでいる熱気が伝わってくる。
やっぱり私とは別世界の人間だ。
コージは相変わらず遅刻早退も多く、問題児の象徴である青い髪をしていた。
ネクタイもせず、いつもワイシャツの第一ボタンをはずしていた。
でも、やっぱりかっこいい。
彼はみんなを熱狂させられる力を持っている。
みんなをリードする力を持っている。
私、やっぱり彼が好きなんだ。