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第二話

手術前、手術後、しばらく連絡することを控えた。

その間、コージは学校を休んでいたし、連絡してもありきたりな励ましは取り繕った言葉でしかないような気がしたからだ。

「がんばってね」という言葉は凄く安い言葉のような気がした。

誰にでも言える社交辞令。

本当にがんばっている人に言えるわけがない。


術後の様子を聞きたくても私はずっと我慢していた。

思ったよりも長い間姿を見せない。

手術後の経過が悪いのだろうか。

不安になる。


しばらくすると、ある日教室に青い頭をした少年が現れた。

コージだった。

髪の毛は以前とは違うカットの仕方をしており、脱色した後に、青い色を入れたらしく、すごくきれいな青色をしていた。まるで空色だ。


「コージ、大丈夫か?」

以前から仲のいい男子たちが駆け寄る。相変わらずのいたずらな笑みで「余裕」と一言。

でも、彼の制服の着方は以前よりも着崩した着方をしていて、ノーネクタイだった。


「蒼野、放課後職員室に来なさい」

担任は、注意をしようと呼び出していたようだった。

しかし、手術をした経緯を知っているからか、あまり彼を責めるような語調でもなく、事務的だった。


「いかねーし」

机にひじをたて、あごをのせながらぼそっとつぶやく。

こんなキャラじゃなかったよね。

私は彼のキャラ変に追い付いていけそうもなかった。

もしかして、彼は生き方を変えてしまったのかもしれない。

からっぽの自分を埋めるために。


「ひさしぶりだね」

私が歩み寄ると、視線を逸らされる。嫌われてるのかなと焦ってしまう。

「似合うと思うよ、青い髪の毛」

「……」

何も言ってくれない。完全無視だ。


「元気そうでよかった。心配したんだよ。連絡しようかと思ったんだけどさ」

「そーいうのいらねーから」

言い方がきつい。辛辣な言葉の矢が私を刺す。痛い。


「今日の放課後は合コン行くから、邪魔すんなよ」

「合コンに行くの?」

「悪いか?」

それ以上何も言えない。

幼馴染みは、口出しできる仲ではないのだから。


それ以来、彼は遅刻早退は当たり前の問題児となっていった。

教師もあまり厳しく言うことはできないようだった。

学校の部活動のケガによって彼は人生が変わった。

それを理解しているからこそ、髪の色の指導は表面的な指導で終わっているようにも思えた。

親も友達も教師も誰も助けてあげられない。

彼の将来まで誰も保証はできないのだから。


合コンでコージに彼女ができたらしいと噂になっていた。

見た目はかなり派手な元気系女子らしい。

多分私とは正反対の別世界の女子だろう。

その子が少しでも彼の力になってくれたらいいのに。

そんな切なる思いが彼に届くはずもなく、彼の性格はずいぶん変わった。

もしかしたら、彼女の影響もあるのかもしれない。

私と彼とは別世界の人間のようで、いつも笑って話していたのが嘘のようだった。

視線を合わせることもない。

彼の瞳の中に私は映ってもいない。

笑っているけれど、彼の本当の笑顔ではないことを私が一番よく知っていた。


彼はちゃんと食べていないのだろうか。

最近、めっきりやつれているような気がする。

病気が悪化しているのだろうか。

不安がよぎる。


放課後、家の近くでコージがうずくまっている。

よく見ると嘔吐しているようだ。


「大丈夫?」

「別に」

みられたくはなかった様子で、気まずい顔をされた。


「みられちまったか」

「大丈夫? 病院に行ったほうがいいよ」

「大丈夫だよ。今から、行くから」

ほっとする。

「私もついていくよ」

「そーいうのおせっかいっていうんだよ」

 

強い語調だ。


「彼女とはうまくいってるの?」

「一応」

ぼそっとつぶやく。彼は嘘をつくとき、声が小さくなる。

つぶやくような発言は嘘となる。

うまくはいっていないのかもしれない。

でも、体調不良は本当だ。


「じゃあ、体に気をつけてね」

自宅に戻るふりをして、そっと後をつけてみる。

まるでストーカーだけれど、今自分ができることがない。

できることを探すために彼の行く病院を知ろう。

何かがわかるかもしれない。


コージはそのまま、駅へ向かい駅前のビルのクリニックに入っていった。

看板に書いてあるのは、心療内科クリニックだった。

眼科でも内科ではないということがまず何かあるだろうと気づくヒントとなった。

先程の嘔吐はただの胃腸炎じゃない?

青い髪の少年の後ろ姿は手術前よりもずいぶんと肉が削げてぽきっと折れてしまいそうだった。

支えてあげなければ、倒れてしまうかもしれない。

そんな心配が私を襲う。

でも、ついてきたことを知られたら、嫌われてしまう。


その後、しばらくたってクリニックから出てきた彼。

その姿は、以前より背は伸びたのに、髪だけではなく顔も青白くなってしまったという印象を受けた。

別世界の住人のように街に溶け込む。

彼は彼女に会うこともなく、まっすぐに自宅に帰宅した。


心療内科クリニックということは、鬱や精神疾患だろうか。いや、不眠症かもしれない。

だから、朝が起きられなくていつも遅刻なのだろうか。

思春期は悩みは尽きないのに、目を負傷してしまったなんて――。

普通ではいられないことは、誰にでもわかる。

手術だって挑むというだけで大きな壁だ。

術後だって今までとは違う生活を強いられる。


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