6「閉院」
年内で閉院する産婦人科を辞めようかとも思ったが、出産を控えている妊婦の出産が全て済むまでは続けようとと思い直した。
産まれてくる赤ん坊と母親となる妊婦へ出来るだけ丁寧に対応して責任を全うしたい気持ちが強かった。
だって、産まれてくる赤ん坊は未来の日本を支えてくれる存在なのだから。
忙しい日々を過ごしているうちに、とうとう最後の妊婦の出産が無事に終わった。
お爺ちゃん先生も肩の荷が降りたのか、何処かホッとした様な表情をしていた。
後任の産婦人科医は見付からなかった様で、隣接する県を含め、この地域に産婦人科は無くなってしまった。
国も県も少子化対策と謳っていても、結局何もしてはくれなかったのには驚きを隠せない。
産婦人科医を志す学生が減っているのは承知していたが、何も手を打たず出産すら満足に出来ない地域がある事を国や県は何処まで深刻に受け止めているのだろうか?
今、東京では都知事選の話題で喧しい。
都知事選の立候補者の中で、本当の意味での少子化対策を考えている方がどれだけいるのだろう?
他県の窮状など気にも留めないだろうと思うと、この地域格差はどうにかならないのかと憤りを感じてしまう。
私も転職しなければならないが、また大都市の産婦人科に勤めるのは気が引ける。
まぁ、実家暮らしなので、暫くはゆっくり過ごして転職先を決めようと思う。
この先、日本はどうなるのかと独り酒を飲みながら考え込んでしまった。