4「緊急事態」
それは、寝耳に水の話であった。
私の勤めている産婦人科医院が新規の妊婦の受け入れを止め、年内で閉院すると告知したのだ。
私が転職した時点でかなりの高齢なお爺ちゃん先生だったのだが、噂好きの近所のおばちゃん達の話によると、もう何年も前から市町村の役場や県庁に閉院したいので後任の産婦人科医を準備して欲しいと申し入れしていたらしく、とうとう痺れを切らして閉院を決めたらしい。
元々、首都圏や大都市の様に公共交通機関が整備されておらず、通勤・通学の時間帯を除けば電車もバスも1〜2時間に1本という状況で、数年後には電車も廃線になるかも知れないほどの土地柄である。
妊婦自身が車を運転して診察に訪れるのは見慣れた光景である。
行政が後任の産婦人科医を見付ける事が出来るのか?
今、話題になっている少子化対策だが、そもそもの産婦人科医が不足している問題を誰も見て見ぬ振りをしているのは何故だろう?
少子化に歯止めをしたいのであれば、取っ掛かりの産婦人科医の拡充は必要不可欠だと思うのだが。
私も折角勤めた医院を辞める事になるので、死活問題である。
また、大都市の産婦人科に勤めなければならないのか?
他県の話については他人事と捉えるのは日本人の悪い癖と言えるだろう。
かく言う私も実家に帰らなければこの様な問題に関わる事もなく、部外者として聞き漏らしていただろうと思うと怒りのやり場に困ってしまう。
早く、後任の産婦人科医が見付かる事を願うばかりである。