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「何故、眼鏡をしている?」
「眼鏡を外せと言われていないので」
私は王子の質問にそのまま答える。
私たちの会話は騒がしさと音楽でかき消されていて、周囲には聞こえていない。
「ロイヤルチェンジに選ばれて、あまり日が経たないというのに、このダンスねぇ……。正体を隠そうとしているわりには詰めが甘いんじゃ?」
私は煽りには弱い。すぐに乗ってしまう。
うるさい、と一言呟き、私は高度な技を入れていく。ダンスの主導権をまた自分へと移した。
自ら地獄の道へと進んでいくなんて、なんて馬鹿なのかしら。
体力はあるから躍り切れるとして、一瞬でもヒールが絡まったりしたら即アウトだ。どうしてわざわざ絶壁へと近づいて行ったのだろう。
私の馬鹿!!
アンバーに馬車の中で「リヴァ王子にどれだけ挑発されたとしても、決して乗らないで下さい」って言われていたのに……。
こんなにも早く忠告を無視するなんて……。
私は、チラッとアンバーの方へと視線を向けた。
彼女は私の方を見て「はぁ」とどこか呆れたため息をついていた。けれど、それ以上に私のダンスの技術に感動したのか、私たちのダンスに釘付けだった。
…………あと少しでダンスが終わる。
「そのドレスよく似合っている」
「ありがとうございます」
私はダンスをしながら、ニコッと笑みを浮かべる。
普段動かさない筋肉を使うから、かなりきつい。こんな時でも笑顔を忘れない私ってなんて偉いのかしら。
自画自賛しながら、踊り続ける。そうでもしないと、やってられない。
「よく間に合わせられたな」
「アンバーが調達してくれたので」
「仕事のできる侍女だな」
「ええ。流石リヴァ様が送り込んでくれただけのことはあります」
暗殺者を、と含意を込めて返す。
リヴァ様は楽しそうにハハッと声を上げて笑った。それと同時にダンスが終わった。
……………………最後まで踊り切った!!!
私はなんとか転ばずに最高のダンスを終えたことに安堵する。
これでワッグ家の名を傷つけなくて済んだ。グレースも少しぐらい私のことを誇りに思ってほしい。
演奏が終わったのと共に、会場は数秒間静寂に包まれた。そして私たちが姿勢を正し、息を整えた瞬間、ワッと会場が一瞬揺れたかと思うぐらい盛大な拍手が鳴り響いた。
「なんて見事なダンスなんだ!」
「今まで見た中で一番のダンスだったわ!」
「素晴らしい!!」
「リヴァ様もあの平民もダンススキルはトップね」
悪口を実力で黙らせた……?
なんという爽快感。もちろん内心でまだまだ私のことを毛嫌いしている人はいるだろうけど、社交界デビューは無事に成功したんじゃないかしら?
私たちに向けられた拍手は暫く鳴りやまなかった。




