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……………………あ。
私は心の中で小さな絶望の声を一言だけ発した。
ジョゼフはライルを疑うよりも私を疑っていたのだ。
まさか、あの紙。試されていたなんて。……正直、あの文章を見た瞬間、それがサジェス国の暗号言語だということなど意識になかった。
心が乱れた瞬間ほど、隙ができる。
ジョゼフ様はまさにその瞬間を狙ったのだ。私は彼の方を振り向くことができず、背を向けたままだった。
「今夜は楽しんできなさい」
それは含みのない真っ直ぐな言葉だった。私のことを探るような雰囲気など一切醸し出されていない。
私はそれを聞いて、そっとその場を後にした。
サジェス国の暗号言語を知っているとバレたとしても、私が王女だとは分かられることはない。
平民だった女が貴族としての所作も知識も知っているとなると、かなり怪しまれているだろう。
……結構徹底して隠してきたのに、意外とあっけなく正体がバレてしまいそうね。
まぁ、この世界に戻ったらこうなってしまうわよね。
結構早く物事を進めていかなければならない。……絶対にサジェス国の者には私が生きているとはバレてはいけない。
グロリア…………、彼女だけは絶対に許さない。
女性で初めて宰相にまでのぼりつめた優秀な人材。……だったけど、本来は汚い手を使って騙すようにして宰相となった。
私にとっても、両親にとっても、とても良い人だった。
良き師であり、良き友であった。それぐらい彼女のことを信じていたのに…………。
「デニッシュ様のお着替えは私一人で充分よ」
突然、扉の外からアンバーの声が聞こえてきた。
少しして、扉を叩く音が部屋に響き、「デニッシュ様、ドレスを持ってまいりました」と彼女は言った。
「入りなさい」
……きっと、彼女は私の本当の容姿を知っている。
セスと戦った際に、あの訓練場でこっそり見ていたはずだ。だから、他の侍女たちをこの部屋に入れなかったのだろう。
…………待って。リヴァは何も知らなかった。
アンバーは王家の暗殺者だけど、リヴァに私の報告はしていない……?
「舞踏会の準備を致しましょう」
部屋に入ってくる彼女を見つめながら、私はアンバーが「私」に仕えてくれていることを理解した。
私は心の中で感謝しながら、今夜のためにドレスに着替えた。
「リヴァ様が彼女の『身体』に合うドレスにしろ、と仰ったので」
彼女が持ってきたドレスは今の私が着ているドレスよりもずっと小さいものだった。
アンバーも一度見ただけで私にピッタリのサイズが分かったわね……。観察力に優れているというか……、もはや怖い。
私の本来の瞳の色――赤のシンプルなドレス。
「良く見つけたわね」
今着ているドレスを脱ぎ、体に詰めていた布を取り出す。
スラッと引き締まった体が露になり、彼女が私に新しいドレスを着せる。
品質も最高レベルのもの。シンプルだけれど、それがまた高級感を漂わせている。
デコルテが露出され、ウエストがキュッと締まっており、真っ直ぐに足元まで伸びたドレス。…………ヒールもドレスに負けないぐらいの高価なものだ。
これで屋敷一つ変えてしまうのではないかと思うぐらいの品だ。
「一体これをどこで……」
「つてがあるんですよ」
アンバーはそう言って、微笑んだ。
ああ、これは教えてくれないやつだ。…………けど、あまりにも私に似合い過ぎて恐ろしい。
アンバーの「つて」がいかに大物かがよく分かる。
まるで私に作られたかのうようなドレスだ。元々あったとは信じがたい。
このレベルのものを一瞬で作り上げたのなら、その者は天才だろう。




