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リヴァは露骨に顔を顰めた。
あ、疑われてる……。
「そんなに気になりますか?」
私は王子を覗き込むようにして見た。
疑われているのなら、疑わせておけばいい。そうすることによって、私を確実に白だと思わせてやる。
リヴァは「いや」と顔を逸らした。
可愛くもない平民の願いなど興味ないか。……別に良いもんね!
「ここだ」
暫く歩くと、迫力で思わず退いてしまいそうな大きな扉の前に来た。
私はじっとその扉の前に固まる。
これはどう頑張っても壊せない。……壊そうとも思わないけど。
「父上に会ってもらう」
「国王陛下と謁見……?」
前代未聞のこの状況に私は思わず腰が抜けてしまいそうになった。
何を言っているんだ、この王子は……。
素性の分からない、さっきまで平民だったような女を国の最重要人物にそう簡単に会わせてはダメでしょ。
この国の将来が心配になるよ。
……まぁ、もしかしたら私の素性をもう徹底的に調べられているのかもしれないけれど。
「嫌か?」
「嫌とかそんな問題じゃなくて……。馬鹿なのですか?」
「は?」
私の言葉を不快に感じたのか、リヴァは眉間に皺を寄せながら私を睨む。
もう存分に睨んでもらって! 私が言っていること正しいと思うから!
「出会ったばっかりの信用してない女を陛下の前に持っていくのはどうかと思います」
「武器も持っていないし、そこまでここの護衛もやわじゃない」
「それでもです。意味のないことにリスクを背負う理由が分かりません。国王陛下はスリル好きなのですか? そうでなければ、要らないリスクは回避すべきです」
私は真っすぐリヴァを見据えながらそう言った。
彼は私がこんな発言をすると思わなかったのだろう。目を少し見開き、じっと私を見ながら固まった。
……美形に見つめられるって慣れないからニヤけてしまいそう。
こんなキラキラした瞳を向けられたら、巷の女は皆イチコロね。……眼福。
「変な奴だな」
「変なのは貴方がた王家です」
そう言った瞬間、私はハッとした。
「やばっ。これ、不敬罪で私死刑になっちゃう?」
絶対的な権力を目の前に彼らの悪口を言ったのだ。
今すぐにでも首をはねられてもおかしくない。
私が焦っていると、リヴァはフッと破壊力のある笑みをこぼした。
…………王子ってこんな柔らかい笑い方するんだ。
思わず「なんて眩しい」と小さな声で呟いてしまった。それぐらい綺麗な表情だった。
「今までそんなことを言ってきたやつはいなかった」
「……今までロイヤルチェンジした方々は国王陛下に会っていたんですか?」
「ああ。一種の儀式みたいなものだ。国王に認められて初めて正式に貴族になれる」
「直接会う意味ってありますか?」
「父上はスリルが好きだからな」
リヴァはいたずらっ子のように無邪気にそう言って笑った。
……ああ、もう絶対にこの部屋に入りたくない。
私は強くそう思った。