72
「ポガリット教会を国王に頼んだ場合、私が教会に行く前に潰されちゃうでしょ。そしたら、ライルを引き抜けなかったもの」
頼み込めば、ライルだけは私の元へ連れてくるようにできたのかもしれないけれど……。国王が出会って数分の平民にそこまで情けをかけるわけがない。
それにライルとの約束をちゃんと果たせなくなる。私が迎えにいくと言ったのだ。
「この男のためにか」
リヴァの視線はライルへと移る。
どういう感情でライルを見ているのか分からない。
私がライルただ一人のために他の孤児たちを犠牲にしてもいいって思ったと解釈されてる……?
「私利私欲のために行動するのが人間でしょう?」
聖人君子のような人間などこの世にいないのだ。
「……だが、お前は他の孤児も見捨てなかっただろう?」
「言っている意味が……」
リヴァは私へと視線を戻し、ゆっくりと近づいて来る。
美形が私の視界を埋めてくる。……後退ろうと思うが、一歩も動くことができなかった。
「お前が教会を訪れた日、地下牢の扉が壊れていたという。そこから沢山の衰弱した子どもが発見された。……その牢の鍵はとても厳重で神父しか開けれないと聞いた」
「それが?」
リヴァの言葉に少し動揺しつつも、平然を装う。
「扉を壊すなどほぼ不可能に近い。それぐらい神父も教会の虐待を隠すのに徹底していた。……そんな扉が壊されているなんて不自然だと思わないか? それもお前が訪れた日だ」
「何が言いたいんですか」
「例えば、魔法か何かによって壊されたとか……」
私を射貫くような目に私は思わず目を逸らしたくなった。
絶対に勘付いているだろ、この王子。
思ったよりも鋭い男だった。教会で神父と言い合いになった際に、どさくさに紛れて地下牢の扉を壊しておいたのだ。それをまさか詰められるなんて……。
「なんのことでしょうか」
ここでとぼけるのはだいぶ無理があるが、とぼける以外に道はない。
私の笑みにリヴァは苛立ったのか、さっきより強い口調で話し始めた。
「ライルの回復も医者が言っていたよりもかなり早い。俺に嘘をつくには詰めが甘いな、デニッシュ」
「嘘なんて言ってません。ただ、何も答えていないだけです」
そっちの方がたちが悪いかもしれない。
今の私の態度の方が、リヴァが私の抱える不審感はどんどん膨らんでいくだろう。
「なぁ、教えてくれ、お前は俺に何を隠している?」
「……王家の力を使ってもう私については調べているんでしょう?」
私も彼のしつこさに少しきつい言い方で返してしまう。
ただライルを迎えに来ただけなのに、アンバーやハリーの前でこんなことを言い争いたくない。ライルを担いで、この場から逃げるか……。
ライル、その辺の子ども並みに軽いだろうし、逃げ切れる気がしてきた。
私がチラッとライルの方を見ると、彼は目で「それはやめておこう」と私に訴えてきた。
「ああ、だいたいはな。だが、六歳までの記録が一切でてこない」
リヴァははっきりと私にそう言った。




