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「一旦、城に来い」
一旦……?
いや、一旦お城に出向いたら、ダメでしょ。この王子、本当に大丈夫なの?
私にはきっと拒否権なんてないのだろうけど、全力で拒否したい。
「寝起きなので、日を改めても良いですか?」
「逃げるだろう」
リヴァは疑うように私を見つめる。
はい、逃げます。
お城みたいな窮屈な場所で生活したくない。……まぁ、私の場合は貴族の家に行くわけだからお城では暮らさないのだろうけど。
それでも厳格なお屋敷の中で暮らしたくない。
今の環境で充分満足している。
「流石にこの格好でお城に赴くのは……」
不敬罪で首をはねられてしまう。
私はまだ死ねない。それなら逃げ出した方が良い。
「服は用意してある」
脱いだら、体型がバレるんだよね。
服の中から沢山布が出てくる。……私のサイズで服を用意してくれているのなら、ドレスに布をまた詰めればいいのか。
「何をそんなに悩んでる?」
「死なない方法を探していました」
「城に行けば死ぬと思っているのか?」
「……平民でいる方が安全ですので」
私の言葉にリヴァは眉をひそめた。
ここでひっそり暮らしている方が間違いなく安全だ。城に行けば良くも悪くも目立つ。特にロイヤルチェンジの平民は貴族にも民衆にも目を付けられる。
「変な奴だな。…………そんなに生きなければならない理由があるのか?」
「復讐したい人がいるので」
私がそう言うと、空気が変わった。すぐに「嘘ですよ」と満面の笑みを浮かべた。
リヴァは私のことを訝し気に見つめていた。
「そんなに警戒しないでください」
私は笑みを崩さないまま王子にそう言った。
王子もたかが庶民の言葉に踊らされるなんて嫌でしょ?
「腹の底が分からない奴ほど厄介なものはない」
「それはお互い様でしょう」
私は王子と共に城へ行くこととなった。
もちろん、私は衛兵と一緒に馬に相乗りだ。馬ぐらい一人で乗れるのに……。
お世辞でも心地の良い場所とは言えないけど、お城に行くのは少しだけ楽しみだった。
白い目で見られるのかもしれない。もしかしたら、聞こえるように悪口を言われるかも。
それでも全然構わない。私がここまで生き抜いてきたことに比べれば、貴族の嫉妬なんてかわいいものだ。
「馬に乗り慣れていますか?」
衛兵は不思議そうにそう言った。
私の家の道は平たんな道ではない。割と激しい道のりだし、お尻を痛めたり、体の軸がブレブレだと疲れてしまう。
それなのに、私が平然と馬に乗っていることに驚いたのだろう。
「いえ、全然。初めて乗ります」
「大抵の方は、乗馬に手こずるので」
もちろん、嘘だ。馬には幾度となく乗ってきた。
「昔から運動神経は良い方なので」
衛兵は「なるほど」と納得したように頷いた。
もし、この会話をリヴァにしていたら、間違いなく疑われていただろう。
もしかしたら、衛兵も私のことを疑っているが追及してこないだけかもしれない。
まぁ、それならそれでいいだろう。