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「セス!!……団長!!」
つい、心の中で読んでいる名前をそのまま口に出してしまった。
セスは私がいきなり突進してきたことに驚いてのかギョッとした顔で私を見る。
「な、なんですか」
先ほど話していた兵士も驚いた表情をしている。悪口を言っていたのがバレたのかも、って言いたげだけど、そんなことはとっくにバレている。
「弓を教えて!」
「弓、ですか……」
「うん、私を一流の弓使いにしてほしい」
私の言葉にセスの表情が険しくなった。
日々本気で向き合っていることに対して遊び感覚で「一流になりたい」なんて言われたら堪忍袋の緒が切れるのも無理はない。
ただ、私はいたって真剣だ。
「本気で言っているんですか?」
「大真面目」
「失礼ですが! 真面目に見えません! 僕達のことをこれ以上馬鹿にするようなら帰って下さい!」
兵士が我慢できなかったのか、私の方へとグッと顔を近づける。
よく見たら、そばかすがある。可愛らしい顔立ちだ。クルクルの癖毛も可愛らしさを倍増させている。
彼と目が合う。私は決して目を逸らさなかった。
「名前は?」
「え、えっと、……マイク・サリバンです」
「サリバンって、あのサリバン家の?」
アンバーは驚いた口調で会話に割り込んできた。
…………サリバン?
マイクは急に勢いをなくし、弱々しい声で「はい」と答えた。
幼かった頃の記憶をなんとか振り絞る。……思い出せそう。というか、この国の貴族も覚えているはず。ワッグ家もなんとなく思い出せそう。
頑張れ、私。いける、思い出せる! …………無理だ。諦めよう。
記憶力は良いはずなのに、思い出せない。
「サリバン家は男爵家です。それも身体能力が並外れて秀でていると言われている一家です」
アンバーは私に説明するように話してくれた。
けど、これを今マイクの前で言ったら逆効果のような気がする。彼、自分の家に対してのコンプレックスが半端なさそう。
「僕は……」
「デニッシュ様、一流という言葉の意味をご存じで?」
セスはマイクが曇った表情をしたのをすぐに察したのか、私に話を振って来た。
「知ってるよ。……ちゃんと分かってる」
私は確かな声でそう言った。
セスの綺麗な淡いグレー色の瞳と目が合う。綺麗な目だ。それによく見たら、耳たぶと軟骨にピアスがいくつか空いている。
右に二つ、左に三つ、右の軟骨に一つ。…………え、不良?
こんなにしっかりしてそうで厳しそうな人が不良?
思わず耳の方へと意識が向いてしまう。
「分かりました。ただ、一つだけ条件があります」
「なんでも」
「絶対に弱音を吐かないでください」
「それだけ?」
私は思わずポカンと口を開いてしまった。まさかそんな初歩的なことを言われるとは……。
「それだけって……、ワッグ家の訓練内容を知らないのか?」
マイクが呆れながら私に話かける。
……あ、敬語じゃなくなってる。まぁ、男爵家のご子息様だもんね。元平民の私になんかタメ語で充分だ。




