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「生きていれば必ず死は訪れます。なので、そんな顔をなさらないでください」
私は淡々とした口調でそう言った。
気を遣われる方がしんどい。どれだけ足掻いても過去は変えられない。
今は、私がロイヤルチェンジ制度に選ばれたことをどう受け止めるかを真剣に考えるべきだ。
「不思議な娘だ」
「……お名前を聞いても?」
「ああ、名乗っていなかったか。アシュ国の第一王子、リヴァだ」
「…………オウジ?」
思考が停止した。
高貴な方だとは思っていたが、まさか王子様だとは思っていなかった。
通りで私の態度に、先ほどから衛兵が私を制しようとしていたのか……。今からでも跪いた方がいいかな?
「なんだその表情は」
固まっている私に、リヴァは顔を近づけてくる。
こういうタイプが一番あざとい。女の子を知らぬ間に落としているタイプだ。
「王子様だったんですね」
私は綺麗な青い瞳を見つめながらそう呟いた。
それ以外の気の利いた言葉が出てこない。まさか直々に王子が私の家に来るとは思いもしなかった。
……てか、普通来ないよね?
「ああ、驚いたか?」
「はい。こんな粗末な場所に来させてしまい焦っています」
「誰かさんが素直にロイヤルチェンジを受け入れないからな。どんな者なのか直接見に来たんだ」
「……期待外れで申し訳ございません」
「いや、かなり興味が湧いた」
リヴァは新しいおもちゃを見つけたかのように楽しそうにニヤッと笑った。
どこで王子の関心を寄せてしまったのだろう。
出来るだけ平凡な女の子を演じていたのに……。
「おもしれえ女枠……?」
私は誰にも聞こえないようにボソッと呟いた。
一番ハマりたくない枠だ。そんな枠に入ることを望んでない。
「まぁ、名前がおかしいからな」
「おかしいのは名前だけです」
「大概の女は俺を見るともう少し媚びるんだけどなぁ」
ああ! なるほど!
媚びなかったのがダメだったのか。それは私の計算ミスだ。
今からでも遅くない。沢山媚びよう。
王子に興味を持たれるなんて今の私からすれば迷惑だ。一般的なリアクションをしておこう。
私は目をキュルキュルに輝かせて、体をくねくねさせた。
「貴族になれるなんて夢みたいです~! これで大好きな宝石がいっぱい手に入れることができますもの!」
私の反応にリヴァは顔を引きつっている。
「やっつけの媚びる演技をするな。大根役者にもほどがある」
「そんなことないですっ! 本気ですよ~」
「じゃあ、好きな宝石の名前を言ってみろ」
「……閃緑岩?」
「それは岩石だ」
おっと……。
好きな宝石なんてない。宝石の印象はキラキラ光る石ってぐらいだ。
「同じ石なのでセーフってことで」
「アウトだろ」
素早く突っ込んでくれる王子に思わず吹き出しそうになった。
私みたいな平民の相手をちゃんとしてくれるなんて変わった王子だ。