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目の前に見覚えのある輝かしい顔が現れた。
リヴァ……、どこにでも現れるじゃん。もはや怖いんだけど……。
五つ子か何か? それとも王子って意外に暇なの?
「いつから……?」
「お前が自害するとか言っていたぐらいから」
「結構序盤ですね」
それならいっそ入ってきてくれた方が良かった。
というか、絶対に国王を説得できるとか言っちゃったよ、私。それもきっと聞いていたはずだ。
「これは……、リヴァ殿下がうちに何の用ですか?」
ジョゼフ様が彼に話しかける。リヴァはニコッと微笑む。
「応接間に通していただいたのですが、少し急用で」
なんだろう。この大物同士の対決。
見ていたいけど、私はそろそろこの場を離れないと。
「では私はこれで」
逃げるようにしてその場を後にした。「おいッ」というリヴァの言葉が聞こえたが、ちゃっかり無視しておいた。
私は早歩きをしながらハッと大事なことを思い出した。
…………あ、ライルのこと聞き忘れた。
「旦那様との交渉はどうでした?」
え、いつから隣にいたの?
どこからともなく現れたアンバーに心臓が止まりそうになりながらも、冷静を装う。
いつでもどこでも急に現れるのが王家の趣味なのかもしれない。……流石はアンバーは王家が雇っている暗殺者だけのことはある。
ここまで気配を感じさせないのは、才能だろう。
「多分上手くいったと思う」
曖昧な返事にアンバーは少し眉をひそめて「多分ですか」と呟いた。
ちゃんと優秀な部隊を作らなければ、私の命はない。自分からそう交渉したのだが、少々早まったかもしれない。
……けど、何事も早めに行動しておいた方がいい。
「武器庫よりも先にライルのとこへ行きたいのだけど、今、王子はこの家にいるし……」
「リヴァ様が!?」
アンバーは驚いた声でそう言った。
「うん、いるよ」
「彼がわざわざワッグ家に足を運ぶなんて……。きっとデニッシュ様の件でしょう」
「……私?」
アンバーの推測に理解が遅れる。
私の話を何故わざわざジョゼフ様と?
ポガリット教会のことかもしれない。私が孤児だったということを伝えるのか、それとも……、あの時見られた魔法のことを伝えられるのか。
けど、魔法はほとんど見えていなかったはず。……言い訳ならまだ出来る。
私はぐるぐると頭の中でそんなことを考えていた。
「デニッシュ様、貴女は……、いえ、なにも……。気になさらないで下さい」
そりゃ、王子がわざわざ屋敷を訪ねて私の件で動いているってなれと、詮索したくもなる。
私だったら問い詰めるだろう。
あんたは一体誰なんだい! って。
「いつか言える日が来たら言うよ」
私はそれだけ言って、武器庫へと足を進めた。




