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「アンバー、中に入りなさい」
私は彼女に部屋の中に入れた。
アンバーはアンバーで一人でじっくり考えたいこともあっただろうけど、先に話し合いをしたい。「はい」とアンバーは逆らうことなく部屋に入った。
扉が閉まったのと同時に、私はアンバーの方を振り向いた。
「……何か聞きたいことは?」
「聞きたいことはあり過ぎます。ただ、これだけはハッキリしておきたいのです。私はデニッシュ様を信用していいのでしょうか?」
アンバーは私を見据えながらそう言った。
彼女の真っ直ぐな眼差しに私は目を逸らしたくなった。
……私を信用しない方が良い。それが本音だった。だけど、そんなことを言えるわけない。
「それは自分の目で確かめなさい」
そう言うしかなった。
私のことを信用して、と言ってもそう簡単に信用できないだろう。だからと言って、信用するな、と言えない。
私を信用するか否か、味方でいるか否かはアンバーの判断に任せる。
「……分かりました」
納得したのか、アンバーはコクッと頷いた。
ライルにでさえ自分の正体を明かしていない。それぐらい私は自分という存在を誰にも見せずに隠して生きてきた。
生き辛かったし、自分を見失いそうになったけれど、生き抜くためにはそうするしかなかった。
……あと、なんとかなるだろう精神のおかげで病まずにここまでこれた。
簡単に私の正体を教えるわけにはいかない。自分以外誰も信用できない。
「私が何者か聞かないんだね」
「聞いても教えてくれないでしょう」
アンバーの言葉に思わず笑ってしまった。
「分かってるじゃない」
「二日目にして少しだけデニッシュ様のことが分かってきました」
「貴女の目に私はどう映っているの?」
「危険人物です」
今度は声を出して笑ってしまった。
こうもハッキリと言われるとは思わなかった。こういう子は好きだ。
ちゃんと私がどういう人物か把握している。
「そんなにおかしかったですか?」
「ううん、ご名答だよ」
私は笑いながらそう言った。
専属侍女に真正面から「危険人物」と言われるとは……。もっとちゃんと令嬢らしく振舞わないと!
リヴァたちにも目を付けられているし……。
ロイヤルチェンジ二日目にしてこれからやっていけるのかちょっと不安になってきた。
……けど、今日ライルを救えたことは成果だ。
明日にでも王宮に足を運ぼう。
……アンバーに「令嬢教育をしてください」って止められそうだけど。




