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私とアンバーは訓練場を後にして、馬車に乗り街へと向かう。
グズグズしている暇はない。セスが帰ってくるのを待っていられない。
セスとすれ違いにならないように、アンバーには窓から外の様子を覗ってもらっている。
……ちなみに、セスの居場所は街のどこにいるかまでは聞いていない。だが、ハミルにも聞く気になれなかった。
訓練場を出る時に騎士たちが会話しているのが聞こえてきた内容によると、セスは昨日の夜からずっと街にいるらしい。
………………もしかして、女?
セスが女に会いに行っているのだ考えると、胸がチクりと痛んだ。
……何かしら、この妙な感情は。
「そういえば」
アンバーが窓の外を眺めながら、話を切り出した。
「彼、全然才能ないのに大丈夫ですか? 弓の部隊」
彼とはライルのことだ。
先ほど訓練場にいる時にメリアにライルの弓の腕はどうなのかと聞いたのだ。すると、返答が「全く才能がありません」だった。
ある程度は的に当たるようにまでレベルが上がったらしいが、ライルには弓のセンスがないらしい。
最初のライルのレベルはかなり酷かったようだ。とんでもない男を押し付けてきたな、と私に対して思っていたらしい。
それでもライルは真面目に文句ひとつ言わずにメリアが言った訓練を毎日こなしていたから、やる気だけは買っていたそうだ。
短期だったが、鍛錬の成果はちゃんと結果に出ていたそうだ。……が、弓使いにするにはあまりにも才能がなさすぎるとのこと。
ハミルが言っていた「ただの石」という言葉が思わず頭に過ってしまった。
もちろん、そんな言葉はすぐにかき消した。
頑張れ、とライルに苦笑いを向けて私は訓練場を出た。
「……ライルは弓じゃない方がいいのかしら」
もっと他に長けている能力があるのかもしれない。
私がまだ見つけ出せていないだけで、他の分野ではとんでもない才能を開花させる可能性だってある。
リヴァの言っていた視力以外の能力も気になるし……。
「デニッシュ様、ここ、皺寄ってます」
アンバーは私の顔を見ながら、自分の眉間を指さす。
ガタガタと馬車に揺られながら、眉間を軽く揉んで皺をつかないようにマッサージする。
「色々と詰め込みすぎてしまうのは体に毒ですよ。ライルは今一人じゃないですし、きっと大丈夫です。……今は明日のパーティーのことについて考えましょう」
……そうだった。完全に失念していた。
私はアンバーの言葉にまた顔を顰めてしまう。さっきのマッサージが無意味になる。
明日のパーティーに参加しなければならないんだった。
セスにリリア王女の居場所を聞くことで頭がいっぱいだった。
「デニッシュ様、私にできることがあればなんでも言ってください」
アンバーは心配そうな目を私に向ける。




