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それは私も感じていた。ジョゼフ様は私に随分と甘くなった気がする。
「……ロイヤルチェンジに選ばれた人間が私を買ったわけですね」
急にメリアの態度が変わる。その瞳には敵意が潜んでいた。
…………どうやら、私がデニッシュ・ワッグであったことが気に入らないらしい。
そりゃ、ジュリアの元で私を殺す計画を企てていたのだ。その本人を目の前にしたら、そんな反応にもなる。
「……ねぇ、なんか不穏な空気じゃない?」
「メリアもロイヤルチェンジに選ばれたかったんじゃねえのか?」
「皆、憧れるものね、ロイヤルチェンジ」
「俺は別にお堅い貴族の世界なんて好きじゃねえよ」
「私も貴族に仕えている身だけど、貴族になりたくないわ」
さっきから、あなたたち仲良いわね……!!
アンバーとライルの会話がなんだかんだ弾んでいる。あのクールなアンバーが意外と話している!!
私は思わず、そっちに気をとられてしまう。
「……まぁ、そんなこと言っても、もう今さら戻れないですし」
メリアは私から目を逸らして、どこか諦めたようにそう呟いた。
先ほどまで見せていた殺気は消えていた。
……なんか意外と物分かりが良い。
もっと敵対視され続けるのかと思ったけれど、あっさりと私を受け入れてくれるんだ……。
私はこの状況に呆気にとられ、彼女を目を丸くしたまま、じっと見つめる。
「…………なんですか? 私の顔になにかついてます?」
メリアの言葉にハッと我に返り「いや」と首を横に振る。
私の感情を読み取ったのか、メリアは話を続ける。
「私もそこまで馬鹿じゃないですよ。それに個人的な恨みは貴女にないですし……。その辺はちゃんと割り切れます」
メリアの真剣な双眸と目が合う。その言葉に嘘偽りはなかった。
「デニッシュ様たちはなんの話をしてるの?」
「……ロイヤルチェンジに選ばれて羨ましかったけど、それを妬まないようにしますって話なんじゃないか?」
「あ~~~、なるほど」
このシリアスさでそうはならないだろ。
私は心の中でアンバーとライルにツッコミを入れる。
アンバーもライルにつられてるんじゃないよ。貴女なら、それは違うだろ、ってなるはずでしょ。
「案外簡単に割り切れるのね」
私の言葉にメリアは固まり、少し間を置いてから再び口を開いた。
「……貴女の腕は本物だから」
メリアの確かな声が鮮やかに耳に響いた。
彼女は更に言葉を付け加える。
「あの時の……三本の矢がリンゴを貫いた光景がずっと目に焼き付いて離れない。……貴女になら私の作る弓を使ってほしいと思えたから、貴女になら私の腕を利用されてもいいと思えたから……。それほどまでにあの光景は私にとって美しかった」
これほどメリアが私に話してくれたのは初めてかもしれない。メリアのくれた言葉に素直に心が嬉しさに包まれる。
「メリア、貴女と出会えて良かったわ」
私は口元を綻ばせ、メリアに手を差し出した。彼女は一瞬戸惑いを見せたが、すぐに私の手を力強く握った。
ゆっくりと着実に才のある仲間が増えていっている。




