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「馬車って使える?」
廊下を早足で歩いていると、アンバーも後ろから同じスピードで歩いて来る。
「は、はい。使えますが……、本当に外出なさるのですか? いきなり街へ赴くのは……」
「屋敷に閉じこもっていなくちゃいけないルールなんてないでしょ?」
「公爵令嬢の自覚を」
「公爵令嬢の自覚を持っているからこそ、行きたい場所があるの」
そもそも公爵令嬢の自覚って何?
街で裸踊りしないとか? 犬食いをしないとか? 殴り合いの喧嘩をしないとか?
……六歳までだったけれど、私は王族だった。それなりの教育は受けている。
今更貴族社会でやっていくことに関して何らかの抵抗はない。
ロイヤルチェンジという意味の分からない制度に振り回されて生活するよりも、自分の生活を振り回すのはあくまで自分でありたい。
どこか納得しない様子だったが、アンバーは黙って付いてきてくれた。
私は御者に「ポガリット教会まで」と伝えて、馬車に乗った。
アンバーは私の前に座った。王宮の馬車も座り心地は最高だったけれど、公爵家の馬車も最高だ。
「あの、どうして教会に?」
「会いたい、というか、私の傍に置きたい人がいるの」
「え、教会の者をですか? それは流石に……。デニッシュ様の身に何があったら」
「よく言うよ」
私は思わずそう言ってしまった。アンバーは「え」と声を漏らす。
……まぁ、いっか。危険な橋はあまり渡りたくなかったけれど、こうなれば仕方ない。
「専属侍女が暗殺者の方が身に何か起きそうじゃない?」
私がそう言うと、アンバーは目を見開き固まった。
じっと眼鏡越しに彼女を見つめる。……ちょっと鎌をかけて「暗殺者」って言ってみたけど、この反応は本物だ。
けど、彼女が私を殺そうとしていたとは想像しがたい。
それならもう少し殺意を感じるはず。……ってことは、私は彼女に監視されていたとか?
馬車の中の小さな空間で私は勝手に推測をする。
「あ~~、もしかして、リヴァ殿下? 彼に私を見張っとけとか言われた?」
「な、ぜ……ですか……」
よくやくアンバーは口を開いた。
驚いているのか焦っているのか、彼女は硬直したまま私をじっと見つめていた。
その反応が面白くて、私は「想像力かな~」と笑みを浮かべる。
私にどれだけ優秀な暗殺部隊を用意したとしても意味ない。幼い頃から鍛えられたせいか、観察力は卓越している。僅かな殺意にでも反応できるほどに。
彼女はスッと表情を元に戻した。落ち着いた顔で冷静に話始めた。
「想像力だけで私を暗殺者と断定なさるなんて、デニッシュ様は随分と豊かな想像力をお持ちですね」
臨機応変に物事を対処できるタイプか。流石リヴァが雇っている暗殺者。
その言葉には一切の焦りを感じなかった。
「普段ナイフを扱っている者にしかできないたこがあるんだもん」
「…………その観察力にも驚きましたが、どうしてデニッシュ様がナイフだこなど知っているのですか?」
ごもっともなツッコミだ。




