202
「……もう里親の話は終わりか?」
たしかにいきなりライルの話にしてしまった。
けど、もう里親の話で話すことなどない。それにとうの昔の話だ。私も記憶が薄れてしまっている。
「何が聞きたいんですか?」
私は逆質問をした。
自分から語る里親の話はない。たったの二か月間の関係だ。私の人生のほんの一瞬でしかない。わざわざ振り返っている暇など私にはない。
「どうして彼らの記憶を消したのか、どうして二か月間しか滞在しなかったのか。デニッシュ、俺はお前のことを知りたいんだ」
「……復讐したい人がいると言ったのを覚えていますか?」
「ああ」
「その目的があったから、誰かの優しさに溺れている場合じゃなかったんですよ。里親の二人は私を本当の娘のように可愛がってくれました。甘やかしてくれて、時には厳しく叱ってくれたりと……、この新たな人生に満足してしまうと思えてしまうほど素晴らしい人たちでした」
ポガリット教会での出来事を忘れてしまえるほど、アシュ国に来てから最も幸せで穏やかな日々を送ることができた。
あの日々を懐かしむことはもうないと思っていたけれど、まさか無理やり王子の手によって思い出すことになるとは……。
「温かいご飯を食べさせてくれて、真心を持って私に接してくれました。とても素敵な日々でしたよ」
「人生に再び彩りを取り戻したような感じだった……?」
「いいえ」
私はリヴァの言葉に首を横に振った。
「尊厳を踏みにじられても、大切なものを奪われても、どれだけ虐げられても、一人寂しい夜を何度過ごしたって、私の人生に嘆いている暇などなかった。……残酷な世界だと分かっていても、私の人生は一度も色褪せることはなかった」
芯の通った私の声が部屋に響いた。
リヴァの目が大きく見開き、その瞳の奥が一瞬だけ揺れるのが分かった。彼は固まったまま何も言わない。
私はそんな彼を真っ直ぐ見据えながら、話を進めた。
「調べていただいたのならお分かりだと思いますが、里親の二人はごく普通の平民で、本当に良い人たちです。……私の復讐のために、恩を仇で返すようなことをしたくなかった。だから、私はあの家を離れたんです。ほんの短い時間でしたが、柔らかな光に包まれた人生でした」
私の人生の中で最も平凡だっただろう。だけど、私の人生において、かけがえのない時間となった。
「…………その記憶だけをデニッシュだけが持っているのはあまりにも辛くないか?」
「そんなことないですよ」
里親の元を離れて、森に住み始めた頃は、何度か切ない気持ちに襲われることはあった。戻りたい、という気持ちがなかったといえば嘘になる。
……だが、私は悲劇的な人生なんて送りたくなかった。
ハッピーエンドは自分で作り出さないと。自分の生き方を決めれるのは自分だけ。
「君は本当に…………」
「本当に?」
私を見つめながら、固まるリヴァに私は首を傾げた。
なにかしら……。不幸だな、とか?
いや、流石にリヴァはこの話しの流れでそこまで酷いことを言えるようなタイプではないだろう。
少しして、リヴァはそっと口を開いた。
「強くて不思議な魅力を持った女だ」




