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ロイヤルチェンジに選ばれてからだ。そこから、大きく私の人生がまた動き出した。
教会で疲弊して、里親からも逃げて、森で過ごして、何事もあまり深く考えないようにしていた私の意識が変わった。
公爵令嬢として貴族の世界に戻る覚悟を持った。そして、サジェス国の王女であったという自覚を再度取り戻した。
立場を利用して、復讐ができると思った。グロリアに近付けるかも、と。
権力を失ったサジェス国の姫と権力のあるアシュ国の公爵令嬢なら、後者の方が断然勝算がある。
私はポガリット教会からライルを救出して、失っていた気力や己の信念が取り戻されていった。
どれだけ踏み潰されても、この命ある限り何度も立ち上がるのだと。
グロリアに制裁を与えなければならない。
……だが、次第にこの気持ちはもはや復讐だけではなくなっていた。
デニッシュ・ワッグとしてまだ少しの間しか過ごしていないが、その期間はとても充実していて楽しいものだった。
リヴァやアンバー、そしてセスと出会い、もう一度、私の人生に豊かさと彩りに包まれた。
この新たな人生を送るのも悪くない、と思わせてくれたのだ。
だけど、やっぱり心のどこかではサジェス国のことが気がかりだった。
亡命したけれど、私があの国の王女だということは変わらない。いつかは戻らなければという思いをずっと抱えていた。
私は強さを手に入れることを望んだ。
自分の弓部隊を持って、アシュ国で立場を確立させてからサジェス国に挑む。無謀な賭けはしない。グロリアを倒すには綿密な計画が必要だ。
そして、今シドからの話を聞いて確信に変わった。
私にサジェス国の民を守る義務がある。
サジェス国の民に腹を立てている場合じゃない。
どれだけ非難を浴びても、私はあの国のために生きなければならない。この魂とこの体はサジェス国のものだ。
サジェス国の王女として生まれたことは呪いでもあり祝福でもある。
「おい、大丈夫か? ……腹でも減ったか? まぁ、確かに結構歩いたし、休憩するか?」
ようやくシドの言葉が耳に入って来た。
私は俯いたまま、「薬についてもう少し詳しく教えて」と口にした。
「は? ……えっと、あれはハイになれるんだが、依存性が高く、一度手にしたら、簡単にやめることができない。薬が切れた時の反動が相当まずくて、意識が朦朧とした鬱状態がずっと続く。さらには幻覚や幻聴すらも引き起こすことだってあるんだ……。さっきのガリューの虚ろな目を見ただろ?」
戸惑いながらもしっかりとシドは答えてくれた。
……律儀な人ね。
私は心の中でそう呟きながら、ガリューの様子を思い出した。
確かに魂が抜けたような廃人になっていた。薬による症状は思ったよりも深刻だわ。
ガリューみたいな人たちがサジェス国に増えているのなら、一刻も早く止めなければならない。
「あの状態は薬の効力が切れかけていたが、薬が入ったガリューには無敵だ」
「薬の名前は?」
私がそう聞いた時だった。




