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「私があなたの願いをなんでも叶えると言ったら?」
「……何でも?」
「ええ、なんでも」
私は自信満々に頷く。
こんなに偉そうにしているけど、「俺をスーパー美女にしてほしい」なんて言われたら、流石の私も無理かもしれない。
彼はじっと私を強い目で見る。
「…………この国の王に会わせろ」
全く予想していなかった言葉に私は驚く。
……王って、あの王様? 私がロイヤルチェンジに選ばれた時に謁見した王様よね?
「ってただのシスターにそんな権力」
「分かったわ」
私はシドの言葉に被せるようにしてはっきりとそう言った。今度はシドが驚く。
「分かった!? おい、街に連れて行ってもらいたいからってそんなバレバレの嘘つくなよ」
どうしてこの言葉だけ嘘だと思うかね。
もっと、私が発したことで嘘だと思うような内容のこと他にもあったでしょ。
私は小さくため息をついて、どうしたらシドからの信用を得られるかを考える。
日が昇り、辺りはすっかり明るくなってきた。昨日までの景色とは大違いだ。薄気味悪さは一切なくなって、むしろ、森を散策したい衝動に駆られるほどだ。
けど、ずっとここにいても退屈しないだろう。
「てか、そもそも俺みたいな放浪者に国王が会ってくれるわけないだろ……」
「絶対に会わせてみせる。約束するわ」
私は腕を横にして、親指を重ねるようにして左の手の甲と右手のひらを合わせる。そして、ゆっくりと頭を下げながら、腕を内側から外へと回し、親指は重ねたまま、両手のひらをシドの方へと向ける。
私のその様子にシドは目を丸くしていた。
これは相手との約束に命を賭けるというサジェス国流の声なき契りだ。
「…………な、ぜ、お前がそれを?」
彼は瞬きも忘れ、私をじっと見つめながらそう言った。私は姿勢を戻し、彼と目を合わせる。
「本で読んだの」
「……その契りの重みを知ってるのか?」
「ええ、もちろん。それぐらい私は本気なの」
「…………はぁ、全く、めんどくさい女に捕まったぜ」
シドはそう言って、どこか諦めたようにため息をついた。
めんどくさい女が勝ちました! そして、やっぱりシドって優しい!
私は目を瞑りながら感謝を述べる。少しはシスターらしいところを見せておかないと……。
「神も貴方のその素晴らしい行いを見ているはずです。あの世でもきっと良き待遇を」
「勝手に殺すな」
彼はそう言って、スタスタと速足で歩き始めていた。私も置いて行かれないように急いで彼についていく。
迷いなく歩き進める彼に、本当にこの森で放浪者をしているんだな、と改めて思う。
「てか、本で読んだだけでそんな綺麗な動きできるもんなんだな」
突然シドが私に話しかけてきた。
……綺麗な動きっていうのはもちろんサジェス国の契りのことだ。
なんで急に疑い深くなってるの……?
疑う基準、絶対に間違ってる。私が服をぶん回して乾かした内容は信じていたのに、本で読んで知ったサジェス国の契りの話を信じないなんて……。




