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私はその文字を見つめながら、何が書かれているかを読み取る。
…………これはこの世界の古代文字?
……無理だ。全く頭に入ってこない。アシュ国の模様暗号を頭に詰め込み過ぎたせいだ。
かつて古代文字も覚えていたのに、今パッと出てこない。
なんだっけ~~~~! これ!!
「おい、シスター!」
私が頭を抱えていると、突然シドの声が遠くから聞こえた。
え、今!? 私の名前呼ぶタイミングって今じゃないとダメなの!?
てか、シドが叫ぶ側なの? 私が叫ぶ側として泉に送り出されたんじゃなかったっけ?
「シスター! 早く戻ってこい!」
あ~~! もう!
シドにこっちに来られても困る。私はイライラしながら、服に魔法をかけて、汚れを落として綺麗にする。
「シ~~ス~~タ~~~!!」
そんな叫ぶな、私の名を!
しかもこんな夜中に。盗賊に聞かれてるかもしれないでしょ。
私はイライラしながら泉から出て、急いで服に着替えて、眼鏡をかけながらシドの方へと駆け足で向かった。
これで、しょうもない理由で私を呼んだなら…………、あの泉に沈めるわよ。
そんなことを思いながら、私は元いた場所へと戻った。
「あ、シスター」
「『あ、シスター』じゃないわよ。大声で叫ばないで。何があったの?」
「急いで、この場から逃げるぞ」
「はい?」
「この近くに盗賊が移動してきている。チッ、俺の縄張りを……」
眉間に皺を寄せながら話すシドに向かって、私はツッコミを入れる。
「まってまって。話が見えない。どうして盗賊が移動してきていることが分かったの? てか、移動してきているなら、声を出してわざわざ場所を知らせるような」
「その1、この辺は俺の縄張りだ。誰か入ってきたらすぐに分かるようになっている。その2、女性の入浴を見るわけにはいかない。逃げるぞ!」
え、意外と紳士じゃない……。
私はシドの話を聞いて思わず感心してしまった。
そして、やっぱり私を置き去りにしないというところが彼の性格の良さを表している。
走り出すシドに私もついて行く。
きっとこの辺りのことはシドの方が詳しい。こんな暗闇の中、どの方向に行けば正しいのかなんてさっぱり分からない。私にできることは、ただシドに必死について行くだけ。
彼は私を横目で見ながら、シドは口を開いた。
「服も洗ったのか?」
「え? うん」
「乾くの早くね?」
あ、そうだった。
こんなにも早く乾いちゃいけないんだった。
「猛スピードで服ぶん回したら乾いたよ」
「……すげえな」
私のとんでもない嘘をシドは驚いた表情をして、あっさりと信じた。
おいおい、こんな内容を真に受けるか? と思いながらも、嘘を信じてくれたことは私にとっては助かった。




