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「まぁ、いい。お前にそこまで興味はない。家名を汚すようなことはするな」
「承知しました」
もっと追及されるかと思っていたけれど、あっさりしていた。
他人に干渉しない人なのかな……。私としてはとても助かるけど。
「後のことは侍女たちに聞けばいい」
彼はそれだけ言い残すと、部屋を出て行った。
ジョゼフ様と入れ代わるように先ほどこの応接室まで案内してくれた侍女が入って来る。
何も教えてくれなかった。この家のルールも、家族のことも……。
私は完全にのけ者なのだ。……もはや別邸暮らしにさせられたり? いっそのことそっちの方が良いかもしれない。
転校生みたいな軽いノリじゃないんだから、この家の方々と仲良くなるなんて無理だ。
「お部屋にご案内いたします」
女性らしい透き通った声に私は「ありがとう」と立ち上がった。
もう敬語が抜けていることに自分で驚く。環境適応能力が早いのか、それとも昔の感覚が残っているのか……。
幅広く長い廊下を歩く。私はただ侍女の背中についていくだけだ。
この侍女、なんか……。
「着きました。ここがデニッシュ様のお部屋です」
私が侍女に小さな違和感を抱いたのと同時に部屋に着いた。
部屋に入ると、立派な部屋が用意されていた。ちゃんと部屋が用意されていたことに驚いてしまう。
めちゃくちゃ豪華ってわけでもないし、めちゃくちゃ質素ってわけでもない。
ちゃんとした普通の貴族の部屋だ。
屋根裏にでも連れていかれるのかと思っていた。……いや、そんなことわざわざしないか。
器の小さい家だと思われるなんて一番嫌だろう。
「そして、私はデニッシュ様の専属侍女、アンバーです」
侍女は丁寧にお辞儀をした。……クールな侍女。
てか、この人が私の専属なんだ。とてつもなく信用できない。
私は心の中で大きなため息をついた。
信用できない侍女がさっそく近くにいるなんて、本当に私は敵陣に乗り込んできたのだ。
「よろしくね」
私は手を差し出した。
彼女もまた手を握り返してくれることはなかった。深くお辞儀をしただけ。
……ワッグ家では握手が禁止って掟でもあるの?
私は彼女の手を一瞥して、先ほど抱いていた違和感の謎が解けた。
あ~~~、なるほど。
「じゃあ、また明日。今日は疲れたから寝るわね」
「え、あの……。おやすみなさいませ」
あくびをするふりをしながら、戸惑う彼女を追い出した。
ガチャリと扉が閉まり、アンバーの気配がいなくなったことを確認すると、私は思い切りベッドにダイブした。
「きもちいいー!」
流石は公爵家。なんと弾力性のあるベッド。
これなら何時間でも寝られる。今日は肩が凝るような出来事が多かったから、ゆっくりと休憩しよう。
……それにしても、あのアンバーちゃん。
侍女なのに、どうしてあんなにナイフを使い込んだ手をしているのか。
私ってば、いきなり暗殺者に接近しちゃった?
かなり物騒な世界に飛び込んでしまったのかもしれない。
私はそんなことを考えながら、瞼を閉じ、眠りについた。




