134
私は去っていくセスの騎士団を見送る。
……私のせいでかなり時間を食わせてしまって悪かったなぁ。
団員たちにとって、長い休憩をだったと思えばいっか。
ジュリアは騎士団たちのおかげで売り上げ上がって喜んでいたし、騎士団たちも良い商品を購入できたと喜んでいたから、プラマイゼロだということにしよう。
「本当に一緒に行かなくて良かったの?」
私は隣にいるライルに向かってそう投げかけた。
私が残ることを知って、彼もここに残ると決めたのだ。セスは私を一人にすることを懸念していたのか、ライルがこの場に残ることをあっさりと許可した。
ジュリアも働き手が増えるのは良いことだ、と言って彼を残してくれた。
「もちろん。……それに、デ、……シナモンが言ったんでしょ。メリアから色々と弓の扱いを教われって」
「まあねぇ」
「なにその曖昧な返事。俺に残られて迷惑そうに見えるんだけど」
「そんなことないわよ。ただ、貴方に弓の才能があるのかしらって思って」
「……努力はするよ」
ライルは口を尖らせる。
鍛えたらそれなりの弓使いになれるだろう。……多分。
「がんばって私を超えてね」
「また無茶なこと言うね。……あんな人間離れした技を俺にできるわけないだろ」
「たしかにそうかもね」
私は笑いながらそう言った。
ライルは私の隣で「なんかその勝ち誇った態度むかつく」とブツブツ言っている。
「見送りは済んだでしょ。シスターは私のところへ。そのガリガリはメリアのところに」
「ちょっと、ガリガリって」
ジュリアの言葉にライルは不機嫌そうに反応する。
ジュリアはライルのことをじろじろと暫く見つめながら、声を発する。
「増量しないと強くなれないわよ」
「…………分かってる」
不服ながらもライルはそう答えた。
少しすると、メリアが私の方へと近づいてくる。彼女は暫く私と目を合わせた後、ゆっくりと口を開いた。
「まさかここを出て行くことになるとは思わなかった。…………まだ分からないけど。……貴女の素性も知らないし、怪しいシスターとしか思っていない。さっきの弓は見事だった」
……なんだか不思議な人ね。
なんの信頼関係も築かずに私の元へと勧誘してしまった。
時間をかけて私のことを知ってもらえればいっか。関係を築くのには労力と時間が必要だもの。
「実力者の元に行けるのは光栄なことだから…………、貴女がただの変態なシスターじゃないってことが分かって良かった」
メリアはそう付け足した。
変態だと思われていたのか。……確かに振り返れば不審者だったかもしれない。
この変態シスターを庇っていたセスはもっと変態に映っていたのかも。……あの場である程度の実力を見せておいて良かった。セスの顔を潰さずに済んだ。
ふぅ、と私は額の汗を拭うふりをして胸を撫で下ろした。




