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「メリアのことは渡すわ。それはちゃんと守る。契約書も後で書いてもらうわ。……残りの借金の一割は貴女が弟子として優秀な成績を収めてくれればなくしてあげるわ。詳細は今言えないけれど。……ただ、貴女が弟子としてポンコツで役に立たないと判断すれば残りの借金はそのままよ。これでうまい話だと疑わなくなった?」
ジュリアは一気にそう話した。
「つまり、また私次第ってことね」
「そういうこと」
私の言葉にジュリアは頷きながら、笑みを向けた。
……厄介なこと課せられそう。
「承諾いただけるかしら?」
「お好きにどうぞ、師匠」
「お手並み拝見だわ」
ジュリアは嬉しそうな声に私は「早まったか?」と心で呟く。
また無理難題をつきつけられるかもしれない。この建物を空高く引き上げろ、とか。あの鹿の銅像を本物の鹿にしろ、とか。
あの鹿の銅像は動かすことはできるけど、本物にすることはできない。てか人間の御業ではない。
「良かったわね、メリア。貴女のためにこんなに必死になってくれる人がいるのよ」
「…………私は別に頼んでいないので」
メリアはぶっきらぼうに答える。
愛想がない。…………てか、そもそも彼女が一流の弓使いなのかこの目で判断してない!!
本当彼女の弓の腕って確かなのかしら。絶対に先に確かめておくべきだったわよね。
私ってばそんなところがおっちょこちょいなんだから~~。
まぁ、弓を作れるっていうのが大きい。武器職人はかなり重宝する。……うんうん、大丈夫!
「メリアの実力をみせてもらっても?」
私はなんとか表面上で自分にそう言い聞かせながら、気付けば本音を口にしていた。
やっぱり、実力はしっておきたい。
ジュリアは少し驚いた顔をしながら、口を開いた。
「そうだったわ。……この子のこと何も知らないで、よく彼女のことをほしいなんて言えたわね」
「直感に従うのが我ら神の使いなので」
言いながら、別にシスターは神の使いじゃないなと一人でツッコむ。
大天使になった方が説得力あったかも。シスターだと弱い。
「神のお告げで彼女を選んだと?」
ジュリアはなんだか良い解釈をしてくれた。訝し気に私を見てるけど。
「とりあえず、実力を見せて」
「メリア、ここから鳥を狙いなさい」
ジュリアの言葉にメリアは私が先ほど使っていた弓を壁から取って、窓際へと行く。
ガタンと強めに扉を強めに押す。扉が開くと、彼女はすぐに弓を構えた。
……両親の借金の時はわざと外したようだけど、今回は別に外す必要がない。むしろ、私に凄腕の持ち主だとアピールする方が良い。
私はそんなことを思いながら彼女を見つめた。彼女は狙いを定めて、素早く手を離した。
綺麗な動き……。
彼女の姿勢もいいけど、標的への躊躇いがないのもいい。鳥が落下していくのがここから見えた。
矢の軌道と鳥の動きを完全に把握していているのだろう。
「あの鳥を今日のご飯にしましょう。ジュドに取りに行かせるわ」
ジュリアは満足気な笑みでそう言った。
メリアは私の方を振り向き、「これでいい?」と聞く。私は彼女に満面の笑みを浮かべた。
「最高だわ」




