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ロイヤルチェンジ  作者: 大木戸 いずみ


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「ちょっと、アメリア様。本当にこんな馬鹿げた賭けをするのですか? ……あの女のために?」

 

 ジュリアから渡された弓を持った私にセスが耳元でそう言う。セスがメリアを一瞥する目はなかなか恐ろしいものだった。


「ええ」


 私の頷きにセスは露骨にため息をついた。


「ジュリアとの契約は絶対です。負ければ、俺が介入することが」

「負けないわよ」


 私ははっきりとそう言って、一階へと降りる。

 今、勝負に備えて、ジュリアが準備をしている。ジュドがジュリアの指示に従ってリンゴを鹿の像のところまで持っていく。……もちろん一つだけ。

 ここにいた者達は一体何が起こるのかと分からず騒がしくなっている。

 私にちょうど鹿の銅像が見える立ち位置が用意されている。標的は、前に訓練場で当てた赤い点よりも遠くにあるように感じる。

 ……うわぁ、ちっっっっさ。

 これ、私の目が悪かったら終わりじゃない。

 私はそんなことを思いながら、一階の賑やかな売り場を通る。団員含め、全員が私の方を遠慮なしに凝視する。


「あのシスター、ジュリア様との賭けをするらしいぜ」

「無謀な……」

「可哀そうなシスター。もう祈りを捧げるしかないな」

「その祈りもきっと届かないだろうよ。神はジュリア様の味方だ」

「俺らこんなところで時間食っている場合じゃねえだろ」

「たしかにそうだけど……、セス団長の決めたことだから口出しできねえよ」

「いいじゃねえか。こんな面白いこと見逃すわけにはいかねえよ」


 なんだか、エンタメみたいになっている。

 こっちは人生かかっているというのに……。


「かなり注目を浴びちゃってるわね……」

「本当によく今まで大人しく暮らしていましたね」

 

 皮肉のようにセスが私の隣でそう言う。

 もちろん私たちの会話は誰にも聞かれていない。それぐらいの声量で会話する。


「何かあったら俺が必ず助けるので」

「……どうして私にそこまでしてくれるの?」


 私の質問にセスは少しの間、固まった。

 私の正体を知ってから、セスはずっと私のことを助けてくれる。ずっと昔から私の近くにいたかのような守りっぷりだ。

 暫くの沈黙が続き、私は自分の定位置に着いた。

 ……なんか気まずくなってしまった。

 私ってば、自意識過剰すぎた? セスは別に私にそんな構っていたつもりなかったとか!?

 え~~~、そんな勘違いは恥ずかし過ぎじゃない! 私ってば、あまりにも主人公フィルター自分に賭けちゃっていた!?

 さっきの質問を忘れて、とセスに言おうとしたのと同時に高い女性の声が私の耳に響いた。


「準備はいいかしら~~!」


 少し離れたところでジュリアが私に叫んでいた。

 私は弓を上に挙げて、オーケーという合図を送る。

 気付けば、もうリンゴは鹿の銅像の場所へと会った。鹿の口に真っ赤な果物が挟まっている。

 すごく小さな的だこと……。本当にジュリアは私に勝たせるつもり少しもないみたいね……。

 私は深呼吸をして、矢を弦に絡めて、姿勢を取る。

 今は集中しないと……。


「初めて会った時から、俺の心はアメリア様のものですよ」


 セスの静かな声が私の心に刺さった。

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