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「聡い女……と断定するにはまだ早いか」
「はい」
国王の呟きに、宰相が答える。
「この娘に公爵の地位を与えてみたくはないか?」
国王が宰相にそう提案する。
宰相、全力で止めて。間違いなく悪目立ちしてしまう。
ロイヤルチェンジ制度としては話題を生むかもしれなけれど、今年じゃなくていい。五年後でお願いします。
宰相は私の方へと視線を移す。
「どうでしょう……」
そのまま迷って、拒否してください。
そもそも私は爵位なんていらない。
「公爵家だと、ラドソン家とかですかね?」
なんで賛成派なんだ。あんたは反対派だろう。
「ラドソンか、なかなか良いな」
「あの」
無礼だと分かっていたが、私は二人の会話の割って入る。
宰相には睨まれたが、国王は「なんだ?」と私の言葉を聞いてくれた。
「私は公爵令嬢になる器ではないです」
「自分からそう言ってくる者は珍しい。この世界は蹴落とし合いが多い。何としても地位を手に入れようとする者ばかりだ。お主は自分のどういうところが公爵令嬢になれないと思う?」
まさかそんな質問をされるとは思っていなかった。
思わず固まりながら国王をじっと見つめた。正直に答えたら、ちゃんと私に見合った爵位になるのだろうか。
そんなことを考えながら、私は口を開いた。
「この国を俯瞰的に見ることができないからです」
「……どういうことだ?」
「目先の目的に囚われている、という言い方が正しいのか分かりませんが、私はこの国のために身を粉にして生きようとは思わないということです」
首をはねられてもおかしくない。
それでも別にいい。ここで嘘をつくと、逆に怪しまれる。この場は本当のことを言った方が良いような気がした。
反逆者と捉えられそう。
宰相は露骨に顔を顰めた。「今すぐこいつをつまみだせ」と言わんばかりの顔だ。
「愛国心がないということか?」
国王はいたって冷静だ。
表情を変えずに私にそう聞いてくる。
「この国のことは好きです。ただ、私は自分のことで精一杯だということです。余裕のない人間が、なまじに地位を得るとろくなことがないので」
国王にこんなに反抗するのもこれで最後だろう。
別に彼に自分を印象付けたいわけでもない。ただ、少しだけ「私」という存在を認知して欲しい。
爵位はいらない。国王に少し興味を持ってもらえるだけでいい。
私は決して目を逸らさず、ジッと国王を見つめていた。




