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ライルと私は物資を置くようの荷台に座らされた。セスや他の者たちは馬に乗っている。
私も馬にまたがりたかった……。
シスターの格好で馬にまたがるのは、流石にはしたない。それに、あまり目立たない方がいいのだから、この状態がベストだ。
というか、この先もずっと自分に魔法をかけれなくなったら……、ずっとシスターってこと!?
シナモンシスターか。なんかすごく透明感のある無垢な名前に聞こえてきた。雰囲気でやり過ごせるかもしれない。
「デニー」
「シナモン」
私はライルの言葉をすかさず訂正した。
癖で私のことをデニーって呼ばれては困る。折角の変装が台無しになっちゃう。アンバーに合わせる顔がないわ。
「……シナモン」
ライルは複雑な表情をしながら、私の名を呼びなおした。
「どうしたの?」
「自分の出生について調べたいって言ったら、シナモンは手を貸してくる?」
おっと、急にシリアスなことを聞かれてしまった。
遠征の道のりって、もっと気楽な話をしていくものだと思っていた。ガタガタ道でお尻が痛いとかそんな中身のない話だと思ったら……。
こんなシスターの格好をしながら話を聞いてもいいのかと思ったが、私は真剣に答えた。
「初めてだね。ライルがそんなこと言うの」
教会で育った孤児たちのほとんどが、自分の出生を知ることを諦めている。
なんの手がかりもないのに、親を探し出せっこない。……それに、孤児だということは捨てられたということだ。
「知りたくなったんだ」
ライルの確かな声が耳に響いた。
もしかしたら、ガイア族かもしれないということが前回のジョゼフ様と対面した時に分かった。
「真実が優しいものじゃなくても?」
「あの孤児で育ったことに比べたら、全部が優しいさ」
「それもそうね」
私は皮肉っぽく笑った。
ライルとこうして落ち着いて話したのはいつぶりだろう。随分と懐かしい感じがした。
……遠征に無理やり来て正解だったかもしれない。
「てか、デ……シナモンは分かるけど、なんで俺まで荷台に乗せられてるんだ?」
「それは……、か弱いシスターを一人にしちゃまずいっていうセス団長の配慮じゃない?」
「シナモンだけはか弱いなんて言葉使うな」
えへっと私は舌を出した。
「かわいくねえよ」
ライルってば厳しい。
かつての孤児友なんだから、もっと優しくしてくれてもいいじゃん!
私はそんなことを思いながら、たしかに私はか弱くはないなと納得してしまった。
なにかあった時ように、太ももにホルダーをつけてナイフを三本挟んでいる。誰かに助けを求めている暇はない。自分の身は自分で守らないとね。
「ライルのことも守ってあげるからね」
私はニコッとライルに向かってほほ笑んだ。




