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「こんなことって……」
セスの声が聞こえた。
私はマーゴットの方へと視線を向ける。彼女は固まったまま、私の作り出した彼女の母の姿を見つめていた。
彼女は目を大きく見開いたまま、ゆっくりと日の光の方へと近づいていく。
魔法はまやかしでだと揶揄する者もいるが、たとえまやかしであったとしても、誰かの心を救うこともある。
人は幻を追いかけたがる。それに応えることができるのは魔法だ。魔法はリアルなのだから……。
マーゴットは自分の母と対面して「ああ」と感嘆の声を上げる。
彼女の母の手がゆっくりとマーゴットの頬に伸びる。我が子を愛おしそうに包み込む母とずっと再会を夢見た少女の姿が見えるような気がする。
マーゴットは「温かいわ」とゆっくりと目を瞑る。ずっと瞳に溜められていた涙が頬を伝った。それと同時にゆっくりと日の光が散っていく。
太陽の光でつくられたマーゴットの母は爽やかな風と共に消えていく。
「母様」
マーゴットの母を呼ぶその声はとても柔らかかった。
「俺はどんどん貴女に惚れこんでいく」
「……時に魔法は惚れた男を落とすために利用されることもあるかもね」
セスの言葉に私は胸の高鳴りを隠しながら、そう言った。
昨日の夜以来、セスとの距離が一気に縮まった気がする。……物理的にかもしれないけれど。
というか、セスが私との距離をどんどん縮めている……?
「そんなことをせずとも、俺はとっくに貴女に落ちてます」
私はその言葉に何も言い返せなかった。ただ体温が上がっていくのだけは分かった。
…………悪くない朝だわ。




