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ロイヤルチェンジ  作者: 大木戸 いずみ
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「デニッシュ・クロワッサン!!」


 とんでもない馬鹿げた名前が街に響き渡った。

 なんて恥ずかしい。この美味しそうな甘い名前は私の名前だ。


「選ばれたのは、デニッシュ・クロワッサン!!」


 もう一度私の名が呼ばれる。

 そんな迫力のある声で言わないで。黒歴史にも程があるよ。

 私はさっきまで呑気にかじっていた林檎を地面に落とした。それぐらい名前を呼ばれることは、私にとってショックな出来事だった。

 もちろんこれは街で一番美味しいパン屋さんが選ばれた名誉あることなどではない。


 この国には不思議な制度がある。

 五年に一人、庶民から貴族になれる制度がある。庶民からしたら宝くじに大当たりするような夢のような制度がある。

 この制度の意図は未だに理解出来ないが、世襲制度を崩すことが目的なのかもしれない。

 頭の良し悪し、美形か否か、性別など全く関係ないと言われている。贔屓なしに、本当にランダムに選ばれるらしい。

 何を基準にして選ばれているかは分からない。この国民の人数のあみだくじとか難しそうだし……。

 とりあえず、私はこの制度に対して何も思っていなかった。

 私には全く関係のないことだと思っていたからだ。

 まさか自分が選ばれることになるなど思いもしなかった。完全に部外者だと思い込んでいた。

  

 まだ名前を呼ばれた現実を受け止められていない。

 ……最悪。目立つようなことはしたくないのに。

 この制度の怖いところは、選出されれば断ることが出来ないということだ。

 強制的に貴族の仲間入りになってしまう。なんて迷惑。

 ロイヤルチェンジ制度なんて、ロマンチックな名前にしちゃってさ。この制度を考えた人を呪ってやりたい。

 普通に考えたら、かなりシビアな制度だ。なんて言ったって、純貴族の中でいきなり庶民が入って生き残らなければならない。 

 アウェイでしかない。なんとも酷な制度だ。


「デニッシュ・クロワッサン! 出てこい!!」


 王家で雇われているであろう衛兵がずっと私の名前を呼んでいる。

 …………めちゃくちゃ出ていきたくない。

 このままデニッシュ・クロワッサンがいなかったことに出来ないかな……。貴族にふさわしくない名前だし。

 というか、私の名前を呼ぶのも普通に恥ずかしくない?

 偽名を使う時は、適当につけないでおこう。もう少しちゃんと考えてから名前を決めよう。

 そう心に誓った。


「ロイヤルチェンジに選ばれたデニッシュ・クロワッサン! どこにいる!」


 ノリのいい若者とかが、「ここですよ~」って言って、ふざけてクロワッサンとか渡して終わりにしてほしい。

 私は街の隅っこの方でバレずに街の様子を見ていた。皆、周りを見渡して私を探している。

 この街で正式に名前を登録したのは「デニッシュ・クロワッサン」だけど、ここでは「マリー」で通っている。

 街の皆もこんなふざけた名前が私だと認識しているはずがない。

 衛兵は少し苛立った様子で、台に立ちながら「デニッシュ・クロワッサン」らしき人を探している。


 ……目立たず地味に暮らしていたのに、どうして私なんかが選ばれたんだろう。

 それならもっと貴族になりたいと懇願している子を選んであげれば良かったのに……。

 全然譲るよ。私はこのままひっそり暮らしていくんだから!

 私はそのままそっと街から離れ、家に戻った。

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