6
「ちわーっす! 宅配です!」
本日何度目かも分からなくなって来るほどの自宅への配達ラッシュ。
空き部屋にうず高く積まれたダンボールの中身はパソコンや配信機材、組み立て式の防音室だ。
里英の配信機材を揃えることになったのだが、実家では配信設備を大々的に整えられないということで、俺の住んでいるマンションの一室を貸して、そこを配信用のスタジオとすることになったのだ。
受け取りを済ませると、またインターホンが鳴る。
「ちわーっす! 私です!」
カメラ越しに敬礼をしながら待っている里英が見えた。
これから埃にまみれた組み立て作業をするというのに、淡い色のスカートにブラウスと中々にやる気のない格好をしている。
「いらっしゃい。上がってくれ」
「はーい!」
インターホンを操作してエントランスの扉を開ける。
五分もすると、里英がエレベータで俺の住んでいる20階まで上がってきたようで、玄関のチャイムがなる。
インターホンに向かって「開いてるぞ」と言うと、勢いよく玄関が開けられた。
「や! 慶センパイ、おはよ!」
物の少ないリビングに里英の声が響く。
「おう、おはよう」
「ってかここすっごい高いね! うひゃあ……海まで見えるじゃん!」
里英は挨拶もそこそこにベランダの方へ向かう。
「もっといいとこ住んでるだろ」
「うちは平べったいからねぇ。こういう高いところからの景色は新鮮だよ」
真の金持ちは横にいくらでも土地を広げられるので上に伸ばす必要がないのだろう。
このマンションは3LDKで一人で住むには持て余していたくらいなので、横に広げる意味もないが。
「じゃ、やるぞ。エアコンは昨日つけてもらったから、まずは防音室から組み立てるか」
「えぇ……自分達でやるの?」
「当たり前だろ。組み立て業者雇ったら追加費用がかかるからな」
「慣れた人の方が早いと思うけどなぁ」
「ぶーぶー言うなって。行くぞ」
俺の言葉を受けて本当に「ぶーぶー」と可愛く言っている里英をスタジオ用の部屋に案内する。
「こっ……これは……大変そうだブーね」
部屋の隅にまとめられたダンボールを見た里英がブー太郎になる。
「なんでブー太郎だよ……」
「慶センパイ。今からでも遅くないよ。誰か呼ぼうよぉ!」
「誰か、なぁ……」
友人らしい友人はメルくらいしかいない。だが、メルをここに呼べば俺と里英の関係を探られてしまう。別に知られたところでどうということはないはずなのだけど、何故かメルには知られたくないと思ってしまう。
「あ、慶センパイ……友達いない?」
「ばっ……うるせぇな」
「私が一号だね」
「残念だけど二号だな」
里英は目を見開いて「そんなぁ」と声を漏らす。
「慶センパイ、一号さんはここに来たことあるの?」
「ないぞ。投資してんのも秘密だったし、ここに来たら怪しまれるしな」
里英は今度は嬉しそうに微笑む。
「じゃ、それは私が一号だね」
「そんなの条件つけて細かくすればいくらでも作れるだろ……」
「そんなこと言わない言わない! ほら! やるよ!」
さっきまでぶーぶー言っていた里英がやる気を出してくれたようで、腕まくりをしながらダンボールの封を破り始めた。
◆
組み立て式の防音室に取り掛かって小一時間。扉を取り付けて完成だ。
「結構分厚いけどどんなもんだろうな」
「じゃ、早速テストテストぉ」
里英は中に入り、扉を閉める。
「あーあー、聞こえてる?」
結構声を張ってそうなのだが、うっすらと聞こえる程度。これなら俺がリビングで何をしていても配信に音が乗ることはないだろう。
「あ……あれれ? これそんなにすごいの? おーい!」
防音室の効果を実際以上に感じているようなので、そのまま一人で話させておくことにした。休憩がてら床においてあったペットボトルの水に口をつける。
「慶センパーイ! これ……そんなにすごいのかぁ……慶センパイ、好きだよ! だーいすき!」
「ぶっ!」
いきなり萌え声で告白をし始めたので驚いて水を吹き出してしまった。
「あー! やっぱり聞こえてたんじゃん!」
まんまと里英の罠にハマったのが悔しいので無視していると、里英の方から出てきた。
里英の顔は真っ赤。サウナにでも入っていたかのようだ。空調装置もついているタイプにしたのだが、効果がなかったのだろうか。
「中、暑かったか?」
「そっ……そうだよ! 慶センパイ、扇風機も買ってくれないと困るなぁ!」
里英はよほど扇風機が欲しいようで、俺の顔も見ずにペシペシと叩いてくる。
「後で探しとくよ。防音室に入れるならサーキュレーターみたいな小さいやつだな」
「う、うん!」
そう言って頷くと里英はまた防音室に入り扉を閉める。
「……い……おーい……」
「よく聞こえないぞ!」
「き……なのは……ガチ!」
「だから聞こえないって」
しばらくすると里英が防音室から出てくる。
「こ、これ……つけ忘れてたよぉ……」
里英が指さしたのは扉の上下の隙間を埋めるためのゴム。それがきちんとついていなかったせいでさっきは声がそれなりに漏れていたらしい。きちんと組み立てれば想像以上の効果をもたらすようだ。
「はぁ……すっごい恥ずかしかったんだけど」
防音室と部屋の床の段差を使って座り、両手で顔を支えながら里英がむくれる。
「なんか言ってたか?」
好きとかなんとか言っていたのは冗談だろうし。
「なっ……何でもないよ! ほら、次はパソコンだよ! キビキビ動く!」
最初はやる気か皆無だった里英は徐々にエンジンがかかり、日が暮れる前には完璧な配信部屋が完成したのだった。
↓にある★を押して頂けるとモチベーションアップになります!
何卒よろしくおねがいします。




