21
金野は退学になり取り巻きも絡んで来なくなった。ストレスから解放され快適なぼっち学校生活を送れるようになったのも束の間、夏休みに突入。
里英は毎日のようにうちにきて配信をしている。初期の宣伝効果も相まってチャンネル登録者は五十万を突破。個人勢としては破竹の勢いらしい。
里英の配信を別室から見て、絢水と三人で飯を食べ、夜は徹夜で絢水と格ゲー。そんなグータラな生活がルーティン化してきている。
昨晩も絢水との熱戦を30勝30負1分けで終え、空が白み始めた頃に眠りについた。
疲れ果てて眠ったからか、里英が起こしに来る夢を見たようだ。
俺がベッドで横になっていて、里英が床に座り顔だけを覗かせながらニコニコしているだけの夢。
「ふふっ。慶センパイの寝顔可愛いねぇ」
目を細めて笑いながら里英がそう言う。夢にまで里英が出てくるなんて相当重症なのかもしれない。
「可愛い奴に可愛いって言われてもな」
「なっ……」
里英は顔を真っ赤にする。リアルな夢だ。
ペシペシと俺の頬を軽く叩いてきて、里英の手の感触や音なんかも現実のようだ。
いや、そもそも現実なんじゃないか?
「お、おはよう」
「おはよ、慶センパイ! そろそろ起きてよぉ! もうお昼なのに二人共寝てるし、暇なんだけどぉ」
仮説を検証するために挨拶をすると、里英も微笑みながら挨拶をしてくる。こんなにインタラクティブな夢はないだろうし、これは現実。
「あ……さっ、さっきのは忘れてくれ!」
「えぇ? 何々? 何のことぉ?」
里英はすっとぼけてもう一度言わせようとしてくる。寝起きとはいえそんな手には乗らない。
ニヤニヤしながらついてくる里英を連れてリビングへ行くと、絢水が相変わらず下着姿で寝ていた。
寝るまでは俺が着てもダボダボになりそうな程大きいTシャツを着るくらいの良識はあるようだが、リビングで一人になった途端これだ。
ソファの前には一人で飲んでいた酒の空き缶がそのまま置かれている。
「うわぁ……絵に描いたような……」
里英が何かを言いかけたのだが、絢水が「うぅ……」と起きかけたので口を閉ざす。どうせなら本人に言ってやって欲しいくらいだ。
「絢水さーん。そろそろ起きてよぉ。今日の配信準備しようよぉ」
時計を見ると既に昼過ぎ。午後から夜まで配信をするスタイルが最近の定番なので、いつも通りのルーティンだ。
いつもと違うのは、昨晩の格ゲーが盛り上がりすぎて寝るのがいつもより遅かったことくらい。
「あと5分寝かせてくれ……昨日は慶とヤリまくってたから眠いんだよ……」
絢水は寝ぼけながら寝返りを打ちながらそうボソボソと喋る。
「や……やり!?」
里英が鬼の形相で俺の方を見てくる。
「ばっ……か、勘違いだよ!」
絢水がふぅと息を吐いて更に続ける。
「慶のスティックをグリグリしてたら、ゴム、切れちゃってね。剥けた皮を治すのに大変だったよ」
「なっ……二人で何してたの!?」
正しくは、絢水が俺の持っているゲームコントローラーのゴム製スティックを手でグリグリしていたら彼女の指の皮が剝けてしまっただけの話。
絢水は本能的にセンシティブな話題になるように言葉を抜く才能があるらしい。
「ほんと……慶が元気すぎて……大きかったなぁ……」
大きかったのは自分の飲んでいたストロングチューハイが750mlサイズだっただけの話。
「けっ……慶センパイ?」
「絢水、起きろよ。いつまで寝たフリしてんだよ」
ソファを回り込み、絢水の頭を軽く叩く。
「いたた……夜と同じくらいに乱暴だねぇ」
「もういいって。頭が痛いのは飲みすぎだろ。顔洗って来いよ」
「はいはい……」
絢水はソファにかけてあったTシャツを頭から被り、洗面所の方へ歩いていく。
「絢水さーん! 裾がパンツに引っかかってるよ!」
「おぉ。悪い悪い。慶が教えてくれないのは見てたからかな?」
絢水は最後まで爆弾を投下し続けながら洗面所の扉を閉めた。
「はぁ……里英、あいつの言うことは真に受けるなよ」
「あ……う、うん。そうだよね……慶センパイに限って……そんなことないよね? ね?」
里英は何を気にしているのか、言質を取るように俺の服の裾をつまむ。
「ないない。俺があいつとどうにかなったらいっそ殺してくれ」
「そっ……それは言いすぎだよぉ! 絢水さん、綺麗だし! 私だったらコロッと――」
里英といつものように歓談していると、洗面所から「どぅわっ!」と絢水の素っ頓狂な声がする。
「どうしたんだろ……」
二人で洗面所の方を見ていると、歯ブラシを加えた絢水が携帯を片手に走り出てきた。
「こっ……これ! あ……脇田万智留! 前に一億円の投げ銭貰ってた配信者! コラボのお誘い! メール来た!」
絢水らしからぬ興奮した声とぶつ切りの話し方に違和感を覚えるが、どうせいつものドッキリだろう。
「絢水ぃ、いくらなんでも冗談が過ぎるだろ……なんでそんな人気のやつから来るんだよ……」
「ほらほら! これ見て!」
絢水が見せてきたのは、里英と絢水で共同管理しているエリモンのSNSアカウント。
ダイレクトメッセージの送り主の名前は確かに脇田万智留。認証マークもついているし、名前をタップすると開かれるのはご本人のアカウント。つまり、本物だ。
「まっ……まじかよ……」
「ふっふーん! やっぱり私って素質あるのかなぁ!? とりあえず話聞いてみようよぉ!」
里英は屈託のない笑みでそう言って、すぐに自分の携帯でコラボの誘いを了承したのだった。
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