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 慌てて学校に行ったはいいものの、午後は職員会議があるとのことで休校。


 午前で終わり、昼飯のことを考えているとそそくさとメルが寄ってきた。


「慶、久々にご飯いかない?」


「おう。いいぞ」


「やった! 最近ご無沙汰だったよね。屋上で何してるの?」


「なっ……なんでもないよ。ヤリゼイサ行こうぜ」


「おっ、いいねぇ。最高のチョイス!」


 ヤリゼイサは安くてうまいイタリアンチェーン。放課後にメルと行くのはもっぱらそこばかり。世間ではやれ女子と行くところではないとか、貧しいだとか言われているが満足できればそれでいい。


 そういえばヤリゼイサの株主優待券が届いていたはずだ。まだ絢水のいる家に通帳の類を置いておく勇気が出ず、金券類も持ち歩いているので鞄のどこかにあるだろう。


「優待……ま、いいや。行くか」


 メルとはそういう話をしたくはない。金抜きで絡める唯一の存在なのだから。


 二人でドリアを食べるのかピザを食べるのか、予算を1000円以内に収めるルールであれこれ考えながら教室を出た。


 ◆


 校門の前にさしかかったところに里英が立っていた。その隣りにいるのは美玲。あまり仲は良く無さそうだったので二人でいたのは意外だ。


 俺を見つけると、里英は手を振り、美玲は上品に会釈をした。


「やっほ! 慶センパイ、待ってたよぉ! お昼行こうよ!」


 俺とメルが近づくと里英がそう話しかけてきた。二人は俺を待っていたらしい。


 メルの方を見ると、笑顔で頷いたので合流しても良さそうだ。


「あぁ、いいぞ。俺達はヤリゼイサに行くとこなんだよ。一緒に行くか?」


「「ヤリゼイサ!?」」


 里英と美玲は行き先を聞くと同時に驚く。


 だが二人の表情は真反対。里英はニコニコしているのに対して、美玲は顔を歪めている。


「私、ヤリゼイサ大好きなんだよねぇ……オリーブオイルドバドバかけたいよぉ」


「えっ……襟裳さん、意外と庶民的なお店にも行かれますのね……」


「美玲ちゃんは行かないの? じゃ三人かな」


「いっ、行きますとも!」


 美玲は若干不満そうだが、一応行くことにしたらしい。


「じゃ美玲ちゃんを入れて四人だね!」


 いつの間にか里英と美玲は仲良くなっていたようで、里英は一方的に名前呼びをしている。


 何があったのかは気になるが、とりあえず腹が減ったので四人でヤリゼイサに向かうことにした。


 ◆


 昼間のヤリゼイサはサラリーマンや子連れの主婦でごった返していた。


 ちょうど一席空いていたボックス席に案内されたのだが、誰も座ろうとしない。


「なんだよ……」


 俺が一番に座ると、椅子取りゲームのように隣に素早く里英が入ってきた。


「ふっふーん。私の勝ちだね」


 里英がメルと美玲に勝ち誇った顔を見せる。


「ま、正面の方が満足度は高いからね」


「心理学的には対角線が最上ですのよ」


 二人は負け惜しみのようなセリフを吐いて渋々俺の向かいに座る。


 訳も分からず三人を順番に見ると「気にするな」と言いたげな顔で三人は俺を無視する。


「なんだ――うわっ!」


 早速隣の席から子供が投げたと思しきフライドポテトが飛んできた。


「元気な子だねぇ」


 メルはそのポテトを素手で摘んで紙ナプキンで包み端に寄せた。


 美玲はその様子を見て顔をしかめる。なんならヤリゼイサが初めてまであるであろう態度を見ていると少し可哀想にも思えてくる。


「美玲、大丈夫か?」


「え……えぇ。大丈夫です。お気遣いなく」


「裾野さん、むしろ普段ってどういうところに行ってるの?」


 メルが美玲に尋ねる。


「リストランテですわね」


「リ……リスト……?」


 澄まし顔で美玲が答えるも、メルは的を得ない顔をする。


「要は高級なイタリアンの店だよ」


「ふぅん……私は馬鹿舌だから違い分かんないかもなぁ」


 美玲は「フン」と鼻で笑う。いけすかない感じはするものの、あまり強く指摘するのも憚られるくらいの関係性なので注文を済ませるとドリンクバーを取りに行くことにした。


「私はコーヒーでお願いします」


 通路側に座っていた美玲はメルを立たせるとまた椅子に座り、メルに向かってそう言う。


「なっ、なんで私が……」


「俺が取ってくるからいいよ。お嬢様は座ってな」


「えぇ、ありがとうございます」


 澄まし顔で座っている美玲を残し、三人でドリンクバーの機械へ向かう。


「慶ぃ、やっぱ裾野さん……っていうかお嬢様は苦手だわぁ……」


「そんなもんだよ。気にすんなって」


「メル先輩、私のことも苦手ですか?」


 里英が割って入ってくる。里英が敬語で話しているのは初めて見たかもしれない。


「なんでメルには敬語なんだよ」


「え? あれ……確かに。ま、今更だよね」


 里英はニャハハと可愛く笑うとコーラをなみなみと注いで慎重にテーブルへ戻っていく。


「襟裳さんは素直で可愛いよねぇ。お嬢様にも色々、か。ねぇ、慶。結局なんで襟裳さんと仲良しなの?」


 コーヒーの抽出待ちの間、隣でジンジャーエールを注ぎながらメルが聞いてくる。


「べ……別に仲良くないぞ」


「ふぅん……じゃ、付き合ってたりするの?」


「そんなわけないだろ! しかも『じゃ』だと繫がんないだろ」


「じゃ、裾野さんはどう? 美人だし襟裳さん以上のナイスバディにボインボインだよ」


 何が目的なのかわからないがメルから質問攻めだ。


 絡みも薄いしそんな目で美玲を見たことがなかったのでそう言われてもどんな体型だったかすら思い出せない。


「興味ないな」


「そっか……じゃ、私は?」


 ジュースを注ぎ終わったのにメルは動こうとしない。まるで俺の返事を待っているかのようだ。


「なんだよ急に……」


 俺がそうはぐらかすと、メルは少し寂しそうに笑う。


「いやぁ……急に慶がモテ始めたから誰かに取られると思うと、ね。」


「俺がいつモテ始めたんだよ」


「え……き、気づいてないの?」


「だから何がだよ」


 里英はやけに絡んでくるがモテるとかそういう話とは少し違う気がする。美玲に至ってはなぜ俺に話しかけてくるのかも分からない。


「あー……うん。じゃ、こうしよう」


 メルはジュースの入ったコップを持って俺の隣に来る。


「これは女の勘だけどね、あのテーブルには慶のことが気になっている人が三人はいる気がする」


 メルは声を落としてさらに続ける。


「ちなみに、そのうちの一人は付き合いは一番長いんだけど、お金目当てと思われたくないから今更アプローチするのを躊躇してるかもしれないし、さっさと告白しとけばよかったって後悔してるかもしれない」


「そ……それは……」


 メルのことか? なんて聞く間もないまま、メルはコップを持ってテーブルへ戻っていったのだった。

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