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EX.夢で会えたら?


 今日も今日とて世界を救った夜。

 帰り着いて布団にもぐる。


「……ふぅ」


 ため息をつくと共に、瞳を閉じる。


「……………………ごくり」


 俺は暗闇の中。とても緊張していた。


「あっ、いかんいかん! 気配察知……と」


 部屋の中に魔力を張り巡らせる。今日の昼、ヴァートに教えてもらった魔法だ。

 加工した薬草を介することで、この部屋くらいの敷地なら、他の生物が侵入してきていないかが確認できる。


「……うん。ルーチェはいなさそう……だな?」


 この部屋を構えて二週間あまり。

 初日の夜のように、時々ルーチェが添い寝をしにやってくるのだ。……不意打ちで。


「……今日だけは、させるわけにはいかないからなぁ」


 つぶやいて。

 改めてベッドに潜り、目を瞑る。


「よし……。それじゃあ発動だ」


 睡眠(スリープ)催眠(メモリー)……!

 発動と同時、頭の中に靄がかかったような感覚に襲われる。それと同時、少しだけ浮遊感も。


「おぉ……。うん、言われた通り、いけそうだ…………な…………」


 急激なまどろみと同時。

 俺は戦闘後にヴァートとの会話を、思い出していた。





「コーにゃん、ちょっといい~?」

「おっ、おうヴァート。どうした?」

「ちょ、こっち」


 いつも通りの世界を(せんとう)救った(しゅうりょう)あと()

 戦後処理をしているみんなから少し離れた場所で、ヴァートに呼び止められた。


「ね、ね、今日あーし、頑張ったと思わん?」

「あぁそうだな……。やけに張り切ってたし、黒幕を追い詰めたのもヴァートだったな」


 凄かったなあと親指を立てる。するとローテンションな彼女にしては珍しく、緩い表情のままグッドサインを返してきた。


「だしょ~? 今日あーしヤババだったよね~」

「そう思うけど、どうした?」


 やけに上機嫌なヴァートに尋ねると、彼女は吐息交じりに耳打ちしてきた。

 柔らかい吐息が脳をくすぐる。


「ね♪ ごほうび欲しいんだけど?」

「ごっ……!」

「しー……」


 大きな声を出しそうになった口を、細い指で塞がれる。

 なんか柑橘系の香りがする。香水とかつけてるのだろうか。


「ね? いいっしょ……?」


 いたずらっ子のように、目じりを歪ませて笑う蠱惑的な黒ギャル。

 前かがみと上目遣いのセットがあわさり最強に見える。


「……っ、おふ、えーと、何がほしいんだよ?」

「やったね♪ コーにゃん好きぴ~」

「……やけにテンション高いな」


 まるでヒナの通常モードくらいにテンションが高い(あいつはハイテンションになると限界オタクみたいにうるさくなる)。ヴァートの中では相当テンションが上がっている方だと思われる。

 つーかこんなヴァート、初めて見たぞ。

 援助交際でその気にさせられたエロ親父のようなテンションになった俺は、もう言うことを聞く気満々だった。

 金なら無駄にあるから、今なら何でも買ってあげてしまいそうだ。

 しかしヴァートが要求してきたのは、金銭的なソレではなかった。


「んじゃさ~。ちょっと今夜、魔法使ってほしいんよね~」

「魔法?」


 いつの間にやら指を絡ませられていた。

 どぎまぎしながら聞き返す。


「そ☆

 ヘリぴから聞いたよコーにゃん。アリぴと夢の中でシた(・・)んだって~?」

「ぶっ……! へ、ヘリオスちゃんめ……!」

「あ~し酒には強いからね~。酔わせりゃパツイチだし~☆」

「それはつまりへべれけ女子会をやったってことか……」


 同じ敷地内に住んでいながら全然気づかなかったが、それはそれとして。

 アリスと夢の中で致してしまったことを、知られてしまったか。


「だいじょびだいじょび。あーしとサシ飲みだったから~。他には話してねーし」

「その二人の絡みってのもなかなか想像できないがともかく。

 そうかぁ……、知ってしまったかぁ……」


 遠い目をする。

 何がすげえって、俺はその内訳を覚えてないってことなんだよな。

 なんつーか。平行世界のコースケ・フクワリさんが、アリス・アルシアンと致したらしいですよという情報だけが、記憶の中にあるという感覚。


「んでさ~。昨日ルーぴ(ルーチェリエル)も酔わせて聞いたんだけど~。ど~やらコーにゃんの中に、インキュバスの力残ってるらしいんよね~」

「お前ルーチェにも飲ませたの!?」

「だってよきよきじゃん? あれ少なく見積もっても一万年くらい生きてね? あーしら魔剣より年上だし」

「そうかもだけど絵面が……!」


 見た目十九歳くらいの黒ギャルが、見た目十五、六歳くらいの女児と、見た目七、八歳くらいの幼女を酔い潰したのである。

 ………………俺は責任取りませんからね!


「……ともかく。なんだ? インキュバスの力? そうなのか?」


 魔力を通して少しだけ確認してみる。

 …………。あ、ほんとだ。アリスと夢の中で致した直前の魔力の流れを、密かに感じる気がする。

 たぶんこれ、発動できるってことだな?


「でもそれがどうしたんだよ?」

「ご褒美ってことでさ~。それ、あーしにもつかってくんね?」

「……は?」


 使うって……。インキュバスとしての力を?


「使ったら……、どうなるんだ?」

「うん。あーしもアリぴと同じコト(・・)出来んの☆」

「はっ……!? い、いやいや……」

「アガるよね☆」

「アガ……、いやいや!」

「あっ、コーにゃん的にアガんのは別んトコかな~?」

「ちょっ……、げ、下品ですよ!」


 へらへらと緩く笑うヴァートの顔を見る。

 ……からかわれてるのか? ……いや、マジだ!

 緩い目元に反し。その奥の瞳は、一切笑っていなかった。


『あーしもコーにゃんとやらしいことしてぇ』


 瞳にそう書いてあった。


「あーしもコーにゃんとやらしいことしてぇし」

「言っちゃったし」


 欲望に忠実な黒ギャルだった。


「ジツは既に~、ベルぴには許可取ってきてんだよね~」

「は!? マジで……!?」

「なんならベルぴも途中で来るかもって~」

「そんな飲み会感覚で……!?」


 人外界隈の貞操観念どうなってんだ! いや、今更な気もするけど!


「い~じゃんコーにゃん。

 ……やらしいこと、シよ?」

「……っ!」

「記憶は残んないんだし。……ね?」


 耳元に。甘い吐息がかかる。

 首筋を流れていく電流は、どういう生体反応なんだろうか。

 ……こういうとき、俺は弱い。


「………………夢、だし、な?」

「そそ♡」


 ギャル特有の、指を折り曲げたピースサイン。

 その指が真っすぐ伸び、馬鹿みたいに空いた俺の口に、するりとは言ってくる。

 歯の裏を中指でこしこしと撫でられる刺激が、トドメだった。


「じゃ………………、じゃあ、夜、に…………?」

「おけ。……夜に♪」


 ちゅぽんと、彼女が指を抜いた直後。向こうからアリスの声が聞こえてくる。


「コースケ、ヴァート、帰るぞ。きみたちも転移の魔方陣に来い」

「おけおけアリしゅ~。

 ……んじゃコーにゃん、帰ったらヨロ☆」

「…………ごくり」


 生唾を飲み込みつつ。

 俺は転移陣へと向かうのだった。






 ――――という出来事の夜。

 うん。眠れん。


「いや……、眠ってる……のか?」


 さっきから眠りかけては起きて、眠りかけては起きての繰り返しだ。

 ちゃんと意識を失っているのか、分からなくなってきた。


「ヴァートが……いうには……、げんじつとげんそうの……さかいめみたいに……なるらしいけ、ど……」


 あたまにはもやがかかったよう。

 とても心地よいまどろみが繰り返され、からだの感覚がどんどんなくなっていく。

 そのとき。

 ――――がちゃり。


「……っ」


 許可を出していない人間には空くはずのない扉が、静かに開いた。

 インキュバスの魔法を使うため、何かあったときのために、ヴァートは入って来てもいいように設定していたのだ。


「ちょくせつ……くるってことは……。なんか問題……あった、の、か……?」


 回らない頭で質問を投げる。

 すると彼女はへらりと笑い、一気に身を寄せてきた。


「いやいや~。もう夢に(・・・・)なってっから(・・・・・・)~コーにゃん」

「……え、そ、そうなのか?」

「そ~そ~……。だから、ほら」


 ヴァートの手が俺の手を掴み、健康的で柔らかな肌へと誘った。

 めちゃくちゃやわらかい。それにいいにおいだ……。


「だからほら、意識しっかりしちゃって大丈夫だから~」

「……そ、そう、なのか。よっと」


 眠気を振りほどいて身を起こす。

 暗闇の中で、ヴァートの綺麗な瞳がやわらかく潤む。

 見惚れていると、俺の唇をはむりと唇で啄んでくる。

 こ……、これは、理性が飛ぶ……!


「りせー……。トんでいいんだよ……?」

「い……、いいの……か……?」

「もち~。だって、ユメのナカなんだし~☆」

「そ………………そうなの?」


 ……なんか。あんまり夢の中って気がしないんだけど。俺の部屋そのままだし。

 あー、でもアリスのときにどういう風になったのか、覚えて無いんだよなあ。

 森の中で眠ってた俺たちだが。夢の中でも同じ場所だったのかどうなのかすら、記憶からは消えている。

 ……まぁでも、ヴァートが俺に嘘つくわけないよな?

 …………無いよな?


「つくわけないじゃん~☆」

「…………そう、だと思うんだけどさ」


 へらへら笑っているだけだから、嘘なのか本当なのか分からん!


「じゃから、トばしてよいと言うたじゃろ? 理性」

「…………え」


 見ると枕元には。いつの間にかベルの姿もあった。

 むっちりとした胸が背中に当たっていて、長い黒髪で俺をくすぐり、いたずらをしてくる。


「ベ、ベル……!?」

「一応ヴァートが許可をとりにきてのう。

 ワシも面白そうじゃったから、参加することにしたんじゃ」

「そういえばそんなこと……を……、言ってたような……?」

「そ~なんよね~。……あ、夢の中に、ね?」

「あぁそうじゃった。夢の中夢の中」


 ……………………本当に夢なんだろうな、これ。

 もうどこまでが現実でどこまでが夢か分からなくなってきた。


「ええいまどろっこしい奴じゃのう~。……それっ!」

「うわ、ぷっ!」


 一度は起こした身体をもう一度組み伏せられ、横たわった俺に馬乗りになるベル。

 ぷちりとクロッチボタンとやらを外す音が聞こえた。


「良いから力を抜いておれ。極楽を味合わせてやる」

「覚悟してね~コーにゃん? あーしらたぶん、くそやばだから~」


 くそやばですか。

 この状況より上のくそやばが、存在するってことですかね。


「今二十三時か~……。ん~……」


 ヒナはちらりと、部屋の壁掛け時計を見て顎に手を当てる。

 そして一瞬だけベルと向かい合う。何かを納得したようにうなずき合った後、再び俺を見下ろす二人。


「まぁ――――、明日の朝までには終わるから♪」


 熱を帯びた瞳は。

 止まらないことを示唆していた。


 ――――あぁなるほど。

 今日俺は極楽とやらに、召されるってコトですね。







 起きたら昼の十二時近くだった。

 急な呼び出しなどは無かったみたいである。


「たしかに、昨日の記憶はない……」


 アリスとのとき。記憶消去に関してはヘリオスちゃん由来だったけど、どうやら俺のインキュバスの力に、それが付随してるってこと――――


「…………なの、か?」


 ヴァートが言うにはそうらしいけど。

 でもまぁ、覚えてないってことはそうなんだろう。

 完全に意識を失う前に、ヴァートがベルと「あーしの闇の力とベルりんの魔竜の力でさ~……」とか何やら話していたっぽいけど、たぶんアレは違う話だな?


「しかし俺も、いくら興奮してたからって寝ながら脱がなくてもいいだろうに」


 現在、夢の中と同じように裸である。

 それに、身体の至る所に残った、ベルとヴァートからの()


「思い込みの力で現実の肉体にも影響があるかもとか何とか。

 ……なんにせよ、これは他のやつらには見せられないな」


 身体に不調が無いかを確認する。

 むしろ気力がみなぎっていて絶好調のようにも思える。

 服を着たところで、ぐぅと腹の虫が鳴った。


「さて、なんか食うか」


 カーテンを開け、外の光を一斉に浴びる。

 俺は気だるい身体を起こして、リビングに向かった。


「――――おっ」

「あっ。おは~」


 そこでばったりとヴァートと出くわす。

 彼女は「わり、すっぴんブスだわ~」と言いつつも、特に隠す様子も無く、がしがしと髪を拭いていた。どうやらシャワーから出てきたばかりのようだ。


「体調どう? インキュバった後だかんね~。ダリーとかない?」

「まぁ普段通りかな。昔から、無駄に寝起きは良いんだ俺」

「そ~? よきだね」

「おう」

「…………」

「…………」


 うん。記憶があろうが無かろうが、気まずいもんは気まずい。

 重ねて、アリスのときもそうだったが。

 相手がこちらに一定以上の劣情を持っていると知ったときの感情は、慣れないものがある。

 でもヴァートのほうは、そういうの無さそうなんだけどなぁ。

 実際経験してみると、思うところがあったのかな?

 俺が疑問に思っていると、彼女は目を逸らしながら言葉を開く。


「…………いや~、思ったよかスゲかったっつーか」

「ん? ……あぁ、感覚は残ってるってことか?」

「え? いやきおく…………、

 ……あ~、そういやそ~だったわ。めんごめんごー」

「な、何!? なんかあんのか」

「いやいやダイジョブダイジョブ。夢だから夢~」

「…………お、おう。そうだよな?」

「もち~。…………あぶな」


 ヴァートは頭をかりかりとかいて。

 こちらを見ずに、一度だけ俺の指先を指先ですりすりとなぞった。


「…………へへ」

「……へ?」

「……えっへへ♪ なんでもね~し」


 そして立ち上がり、「んじゃね」と気分良さそうに去って行く黒ギャル。

 指先に残った彼女の香りは。

 どこか覚えのある香りで。


「……………………ホントに夢だったんだよな?」


 一日消えない痕をさすり。

 俺はもやもやした一日を過ごすことになるのだった。





      バニー勇者の魔討譚 第三章:END

                第四章に続く






 こちらの作品ではご無沙汰しております! おふなじろーです!

 一旦のケリがついたところで、第三章は終了でございます。

 新キャラの色々、ベルとヘリオスちゃんの関係、神様のことなど、初期から語っていないことはほぼほぼ語れたので、個人的には満足の回となりました。

 読者の皆様も楽しんでいただけておりましたら幸いです。




 さて第三章。

 本当だったらぎゅっとつめて第二章に入れる予定だったのですが、ヒナの掘り下げやルーチェの強敵感を出すために分割をいたしました。

 逆に第四章のエピソードにしようと思っていた黒ヒナ(ヴァート)は、早い方が良いかと思いこちらのエピに突っ込みました。

 結果的に賑やかになったので良かったかなと思っております。



 そして今作からの実験として、若干芸風を軽めにすることにチャレンジしてます。

 何名かから、「もっと軽くだ! ……いやもっとだ! 思った以上に軽くていい!」というアドバイスをいただいたので、取り入れてみました。

 私の伝えたいことが少しでも受け取りやすくなっていると嬉しいです。第四章はもっと軽くなるかもしれませんが、予定は未定です。





 ヒナとヴァートについて。

 元々光の人格と闇の人格については考えていました。ただ二重人格にするとは考えていなくて、「ヒナはもっと冷徹モードがある」というふんわりとした設定のみが漂っていました。

 それが物語を進ませるにつれ、これ二重人格にした方がいいな。から、もう分裂した方がハーレムっぽくね? という考えに至り分裂させました。

 ヒナとヴァートとコースケの三人の会話を見たかったという本能です。白ギャルと黒ギャルが合わさり最強に見えることは、日本書紀にも書かれているので間違いないですね。

 刀剣フェチのアリスのリアクションを、忘れてなければどこかで入れたいです。




 アリスといえば問題の(?)夢オチ回なのですが。

 詳しい描写をしなければオッケーなのではと思い、前回同様決行しました。同時にヴァートもやりました。むしろヴァートの方がヤバ気です。

 基本的に文章の書き換えはしても展開は変更しないおふなじろー作品ですが、万が一問題になったらそこの展開だけは変更になりますのでご了承くださいということを、今のうちに宣言しておきます。




 作者近況。

 あ、今日髪を切りました。(六月初旬現在)

 最近ガチャ運が悪いです。ティアマトママ……、ドラコーお前さぁ……。

 一本完結のものを再び書いてます。出せるかは未定です。




 お話戻しまして。

 次回の第四章は、これまでと少し毛並みの違った作品にしてみたいなと思っています。

 一人一人の話になっていくかもしれませんが、物語の軸はぶらさないようにしていくつもりですので、これからもお付き合いいただけるとありがたいです。


 かねてより。

 個人ブログで紹介していただいたおかげか、おふなじろー作品としてはかなりいいスタートを切れた作品でございます。(一応個人名伏せておきます)

 第二章のときもブクマ・評価が増え、嬉しかったです。

 読み手あっての作家でございますので、これからも「バニゆう」ともども、おふなじろーをよろしくお願い致します!



 ……といったところで、今回はこのあたりで!

 またこの作品or違う作品でお会いしましょう!

 それではまた!



   2023/7/3    おふなじろー


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