30.かけがえのない日々だから
既に日付は変わっていた。
あたりは暗く、昼間の暑さが嘘のように夜の風が冷たく吹いてくる。
岩場にて風と波を感じていると、柔らかな光が現れた。
「おっ、来たな」
光は次第に人型へ。ふわっと一瞬柔らかく輝き、ヘリオスちゃんの姿となった。
「お待たせしましたコースケさん!」
「いやいやこちらこそ、無理に呼び出しちゃったみたいで」
「いえ! 私も来たかったので!」
ぺかっと、暗闇を吹き飛ばす笑顔を見せる彼女。
よく見ると普段の神聖な衣装ではなく、可愛らしい水着姿だった。
「えへへ……。せっかくの海ですので……」
「かわいいな。似合ってるよ」
鮮やかなピンクのワンピースタイプで、肩口にフリルがこしらえてある。
元々スタイルが良いので目のやり場に若干困るが、ベルたちと比べてぜんぜん健全だ。
「後ろも見てください。羽も出せるんですよ!」
「よかったよか……ぶっ!」
前は健全だが後ろはぜんぜん健全じゃなかった。
羽を出すためなのか、背面の布面積はほとんどなく、わずかな紐で止まっているだけだ。尻部分も、付け根がぎりぎり隠れるくらいの面積しかない。
「動きやすくて気に入っているのです!」
「あぁうん……。ソウデスカ」
風邪ひかないようにね(?)という謎の言葉をつぶやいて、俺は一緒に岩に腰掛けた。
ざざんと、夜の波の音が綺麗に響く。
月と星灯りだけが、あたりを照らしている。
「私もここに来れて良かったです」
「まぁベルたちは一旦引き上げたけどね。ここは魔物もいないエリアだから安心らしいし」
「ですね! トラブルの無い場所を選びました! 百パーセント天界の管轄なんですよここ」
なるほど。
日中も全然危険なことが起こらないと思ったら、そういうことだったのか。……いや、ベルたち絡みの危険なことは何回かあったんだけど。
「それは私も見たかったですねえ」
「そう? 大変なだけだと思うけど……」
「戦闘中のベルアインたちの管理を思えば、ぜんぜん大変ではありませんよ。
ここならどれだけ被害が出ても問題ありませんし」
「……ご迷惑をおかけいたします」
特に市街戦とかね……。
あぁでも、ベルもだいぶ考えてくれるようになったから、これまでの心労も少しは減るかな?
「どうでしょうねえ……? 今回はたまたま被害ゼロで終わりましたが、次はどうなるかは分かりません。
気遣う心が芽生えたのと、実際に気遣えるかはまた別ですから」
「まぁそうだな……。引き続き現場には注意して向かうよ……」
どのみち苦労はしそうだな。
軽く笑い合ったあと、ヘリオスちゃんは「それで」と質問をした。
「お話があるとのことでしたが。改めてなんでしょう?」
「うん……。
あのさ、ちょっとお礼言いたくて」
「お礼……ですか?」
ヒナとヴァートと話していて、頭をよぎったことだ。
俺がこうして、なんだかんだ楽しく過ごせているのは、ヘリオスちゃんのお陰だなと思ったのだ。
「私の……ですか? ベルアインやアリスさんではなく?」
「いやもちろん、みんなのお陰でもあるんだけどさ」
なんというか。
ベルと共に冒険を始めるスタートライン。
そこをヘリオスちゃんが整えてくれたからこそ、今があるなと思った。
「きみが分かりやすく土壌を作ってくれたから。
だから頑張れたよ、俺」
感謝の気持ちはしっかり伝えたい。
分かりやすく――――言葉にすることが大事だと。他でもないきみに教わったから。
「ありがとうヘリオスちゃん。きみが、俺とベルの近くにいてくれて、良かった」
「わ――――ぁ、」
彼女は胸の前で両手をぎゅっと閉じ、足をぱたぱたさせていた。ついでにいつの間にか背中に出現していた羽もぱたついていた。
「コッ、あ、あの……! コースケ、さん……!」
「な、なに?」
「あっ、えー、えっと……! こういうとき、私どうしたいんだろ……? う……、え、え~いッ!」
「おうっ?」
照れてその場をくるくる回っていた彼女は、一瞬動きを止めたかと思うと、ひゅんっと距離を詰めてきた。
気づけば俺の腕に顔を寄り添わせている。
黙ったままの身体とは裏腹に、羽だけが喜んでいる犬のようにばっさばっさと動いていた。
「あ、あの……ヘリオスちゃん? 大丈夫……?」
「大丈夫です……」
うつむいたまま彼女は、か細い声をひねり出す。
「大丈夫なんですけど……、ちょっと……」
「ん?」
「自分の感情が、――――分かりにくいです」
言葉と共に放たれる、赤面の上目遣い。
この夜一番の大ダメージだった。
【読者の皆様へ】
お読みいただきありがとうございます。
明日の更新にて、第三章完結です。よろしくお願い致します!




