29.バニー勇者の魔水譚・2
木陰で一時間ほど眠っていた俺が目覚めると、どうやらみんなは違う場所へ遊びに出たらしい。
「と思ったら、お前はいるのか」
「一人にするわけにはいかんじゃろ?」
隣を見ると、そこにはルーチェが浮いていた。
青のワンピースタイプの水着で、ワンショルダーの肩口には可愛らしいフリルがこしらえてある。
綺麗な長い髪はオールバックのポニーテイルでまとめていて、綺麗なおでこが太陽を反射した。
「ご配慮感謝致します」
「なにがじゃ?」
「いやほんとに。攻め攻めのマイクロビキニとか持ち出されたらどうしようかと」
「そんなもん着るわけないじゃろ。止められたし」
「着ようとしたんじゃねえか」
たぶんアリスだな。グッジョブ。
このパーティはお前が居ないと崩壊している。主に俺の理性とか。
「のうコースケよ? お前は布面積の少なさ、イコール、エロさと考えておる、思慮浅い生物なのか?」
「いやそういうわけでは無いんだけどさ。でも肌面積多いと、純粋に興奮するじゃん?」
幼女に何を語っているんだと思わなくも無いが、せっかくなので言わせてもらおう。
「俺という人間は、フェチズムなんてほぼ持ち合わせていない人間だ。
だからこそ――――肌面積が多ければ多い程、ド直球に興奮する」
「なるほどのう~。わらわ超理解」
お分かりいただけたみたいだ。
言って背中から着地して、そのまま砂浜に寝そべるルーチェ。
目を瞑り、あどけない表情で太陽と風を一身に浴びている。
「こうしていると普通の幼女みたいだなあ。
俺をインキュバスに変えたヤツとは思えない」
「なんじゃ根に持っておるのか?」
「いや別に。つーか俺としては、イケメンに変えられたのは良い経験だったよ」
まぁあの後。騙してたのねとハバールの街の女性陣からは避難ごうごうだったのだが。
でも多くの女性に囲まれ、言い寄られた時間は、何物にも代えがたい黄金体験だった。
「しかしぬしも、ニンゲンのくせにぷよぷよ肥え太っておるのう」
「まぁ不摂生だな」
「きゃはは! だらしないカラダじゃ! ……ん?」
ルーチェは馬鹿にするように笑いながら俺の腹をぺしぺし叩いた。
が、その直後。手の動きが叩くではなく、撫でる方へと変わっていく。
「はわわ……、な、なんじゃこれ……」
「ルーチェ?」
「のじゃ!? いっ、いやいや……! 何でも、ないのじゃ……」
「そ、そう……?」
ならちょっと手を放して欲しいんですが。
「も、もうちょっと……。もうちょっとじゃけしからん……」
「おい」
どうやらこいつもアリス同様、俺の腹にハマってしまったらしい。
「だらしないんじゃなかったのかよ?」
「だらしない身体というのもそれはそれでありじゃ……」
「幼女が危ない発言すんな」
街中だったら通報ものの好意が行われている。
俺は彼女をさっと引きはがした。
「いやコレ、わらわら魔なる者として考えてみると、仕方のないことでもあるのじゃ」
「あん? 何がだよ」
怪訝そうに尋ねる俺に、ルーチェは俺の腹の膨らみをぽよぽよつつきながら答える。
「ぬしの体つきはオークに似ておる。じゃからじゃ」
「悪口じゃねえか!」
もう一回“魔法”と“戦争”か?
ドエレ――――“COOL”じゃん……?
俺が気合いをブリバリしていると、ルーチェは違うわいと飛びのいた。
「わらわたち『魔なるもの』にとって、オークは性の象徴じゃ。力も強いが性欲も強い」
「ふむ……? ふむ」
「オークに似ているお前というのは言わば、ニンゲンが色っぽい女に対して、『エロすぎだろ。まるでサキュバスじゃねえか』と思うようなもんなんじゃ!」
「人外特有の謎理論キタコレ」
「つまりお前のぷよ腹は、ちょっとだらしない色気をした、熟れた身体を持て余しておる未亡人と同じ」
「すごい例えキタコレ」
「つまりお前は……熟女巨乳キャラ」
「それは違うんじゃないかな」
ともかく。
俺はどうやら『魔なる者』たちにとっては、魅力的な身体(の一つ)に見えているらしい……。
しかしおれはそこで、一つ重大な事実に気づく。
「ってことは、アリスは――――」
「うむ。太ったお前の身体が好きなアリスは――――」
俺はごくりと息を飲み込んだ。
「相当特殊な性癖というわけじゃな!」
「やっぱりそうなのかあああ!!」
なんてこった!
なんて残念なやつだアリス!
でも俺も、美女だけが好きなタイプってわけじゃないから、気持ちは分かるぞアリス!
「ふぅ~ただいま~。ん? どうしたんだ二人とも? 何やら悲しい目をこちらに向けて」
「「……………………」」
お前は人の身体のまま、この業を背負って生きていくんだなぁ。
「ぐすっ……! いいんだ……。お前が楽しく生きれるなら、それで……!」
「おかしとかいっぱいやるからのう……!」
「? もらえるものならもらっておこう……?」
俺とルーチェはアリスの真実に涙が止まらなかった。
頑張る……。俺、あんまり体重落とさないよう、頑張って不摂生するからな……!
「それでコーにゃんは、みんなを幸せにするって結論に達したのかぁ」
「そうなんだよヒナ……!」
「でも面倒なヤツら多いのは事実だから、どっから手ぇつけていいか分かんないカンジなんかぁ」
「そうなんだよヴァート……!」
四苦八苦。八方ふさがりだった。
「両手に花どころの騒ぎじゃ無いしな」
「つかめるとこ全部使っても一人余んじゃん」
「真ん中に一本あるからソコ掴めば?」
「ソコは共同スペースだから☆」
「あーね」
「……何の話してるのかな?」
ともかく。
一息ついたところに、ヒナとヴァートがやってきた。
「コーにゃんってなんか目標とかってある~?」
というヒナからの質問が飛んできたので、ざっくりと「みんなを幸せにしたい」と語った次第だ。
……これ、番外編で言うセリフではないなとしみじみ思う。
「しあわせね~」
「ハピってウェイみたいなノリ?」
「たぶんそんなカンジくね?」
ノリで言いつつ、木のコップを乾杯させる二人。
気の合う姉妹みたいだった。……姉妹っつーか同一存在なんだけど。
「同一存在でも好みとかぜんぜんちげーし」
「そだね~。アタシはスポカジ系好きだけど」
「あーしはサーフ系好きだし。オッサンは全部同じにすんよね~」
「コーにゃんはそれでいいんだって~。ギャルファッションに詳しいコーにゃんとか嫌じゃね?」
「ワロ」
「はは……。ワロワロ」
確かに言われてみれば。二人ともオレンジ色の水着だが、タイプが違う。
ヒナはシンプルかつ動きやすさ重視のビキニ。ビーチバレー選手の格好にもうちょっと遊びを足した感じだ。
ヴァートの方もビキニタイプではある。しかし薄めの色合いで葉っぱの紋様が散りばめられていて、腰のあたりにも少しだけレースの装飾が施されていた。
「ポイントに気づくとお洒落さがわかるなあ」
「ありちょ」
「へっへ~。いいでしょ~」
ゆるく笑うヴァートと照れて笑うヒナ。
水着抜きにしても、二人の違いは明白だ。
ただ……、手が早いのはヴァートだった。するりと身を寄せてきたかと思ったら、かなり際どく上部の水着をめくった。
「すげくねコーにゃん? ほらここ、裏地まで縫い込まれてんべ?」
「おわっ……! ヴァート、見える見える!」
「ぜんぜんヨユ~でしょ。ほら~。これでもっと違い分かるんじゃん~?」
健康的な黒い胸が、否応なしに目に入ってくる。
うりうりとからかってくるヴァートを、ヒナが光速で止めにかかる。
目に見えない両手の動きで、互いに牽制しあっていた。……腕同士の衝突なのに金属音が響いてるんですが。
ぜーぜーと肩で息をする両者。どうやら引き分けに終わったようだ。
「はぁ~……。
あ、コーにゃんも水着似合ってんじゃんね?」
「だね。さり気センスよくね?」
「例によってアリスチョイスだ」
「うひゃーくそやばセンスだね~。ここまでくるとワロえないね~」
「よくこんなピンポイントに似合うもん持ってくるよね~。どんだけコーにゃんのこと好きなんだし」
うぉふ、照れるでござる。
というかアリスは、たぶん全員の好みを把握してるぞ。かなりみんなのこと見てるしな。
「ひぇすげ~。あーしとか流石にアリぴの好きな服とか知らねーわ」
「アタシも食べ物くらいしか把握してないかも~」
「俺もだよ。
興味が無いわけじゃないんだけど、どうしても脳のキャパがね……」
「勇者も一緒にいたトキにさ~。ほっとんど他人と関わんなかったじゃん? たぶんそーいうのあったんかもね」
「あーね」
どうやら何百年前に居た勇者さんも、人付き合いは苦手だったらしい。
俺の思い描く勇者像とは結構違うみたいだな。
「それにしても、人付き合いねえ」
「あ~。コーにゃんもたしか、あんま人付き合いしてなかったんだっけ?」
「そうだなあ。二年前にここに――――てたら――――だったかも。……おっと」
「あ、発言妨害入った☆」
「言っちゃだめなことマジめんでぃーよね」
気を抜くと、異世界から来たこと言っちゃいそうになるなあ。
まぁだからこその発言妨害なんだろうけど。
「とにかく、これまでの人生でさ。ここまでいっぱい女性がいることが無かったんだよな」
「ふぅん」
というか社会復帰を果たしてからも、ここまでの人数と人間関係を形成していない。
俺が務めてたコンビニは小さいところだったから、一緒にシフトに入ってたおばちゃん二人と、店長。昼・夜交代のときに会う大学生の男性二人くらいか。
「あはは。それじゃあ一気に増えて大変だ☆」
「ベル、ヘリオスちゃん、アリス、ヒナ、ヴァート、ルーチェ……。あとルインも入れると七人かぁ」
既に職場で関わってた人数を超えてしまった。
俺にしてみりゃ大進歩な気もする。
「騒がしい日々ってのが……、こんなに楽しいとは思ってなかったよ」
ベルとヘリオスちゃんの三人で始まって。
気づけば人も増えていた。
「これも、支えてくれるみんなのおかげだな」
「コーにゃんだいじょび? 明日死ぬ系?」
「急な感謝とかマジこえーんだけど」
「いや変なフラグとかじゃねえから! 大丈夫大丈夫!」
ちょっと感傷的になったらこれだ。まぁでも、今のは俺の空気の出し方も悪かったですね。
「……っと、若干冷えてきたか?」
一陣、冷たい風が頬を流れる。
気づけばだいぶ日も傾いていた。
「そろそろ切り上げドキじゃんね」
「っぽいね~……。ん~それじゃ、楽しいコトはまた明日かな~」
明日、かあ。
明日もずっと、みんないてくれるんだよな。
「……よし。それじゃあ撤収だ。
お~いみんな~。そろそろ帰るぞ~」
立ち上がり。
声をかける。
暑い日差しの名残は去っていく。
けれど明日になれば、また日は昇り、暑さを取り戻す――――
「…………んー」
「どったんコーにゃん? キス? ライトとディープどっち?」
「いや違う。違います。……顔寄せるなヒナ!」
「んじゃせーよくだな。おっけ、脱いでいいよコーにゃん」
「そっちもちげーから! ずり降ろそうとするなヴァート!」
二人にストップをかけ、乱れた息を整える。
うん。明日も楽しい日々は続くだろう。けれど……。
「名残が去る前に、やる事あるな」
「……あーね」
「……ま、そだよね~」
一応連絡取ってみよう。
こんだけ楽しい時間だったんだ。
出来れば共有したいしな。
日差しの暑さが背中を押したのか。
俺は、ヘリオスちゃんに連絡を入れた。
【読者の皆様へ】
明日と明後日の更新で、第三章終了となります。
最後までお付き合いよろしくお願い致します。




