28.バニー勇者の魔水譚・1
「――――というわけで、海じゃ!」
「「「「「イエーイッッ!!」」」」」
「天丼始まり!?」
部屋割りが決まってから三日後。
俺たちは海へとやって来ていた。
青い海。白い砂。
どこまでも見渡せる穏やかな空。
「昨日の激闘が嘘みたいだ……」
「頭が痛くなる事件だったな……」
ばしゃばしゃとはしゃぐ魔竜魔剣魔法らを見ながら。
砂浜でたそがれる、保護者二人。
昨日解決した事件。
国のお抱え宮廷魔導士が謎の召喚陣を起動し国家に反逆。
その裏では軍の新型魔法ゴーレムの起動実験も行っており、召喚されたナニカがゴーレムへ憑依。
一夜にして大都市が火の海に沈む――――かもしれなかったところを、俺たちがすんでのところで防げたのだ。
……どっかで聞いたような事件だな。
「まったくアレか!? 軍の上層部というやつは、決まった事件しか起こさないのか!? 国家転覆を目論むことがそんなにカッコイイと思ってるのか!? ヒトガタゴーレムに変な者を宿らせないと、生きていけない奇病なのか!? なぁ!!」
「お、俺にあたるなよ……」
うがーと頭を抱えるアリス。
「ま、まぁまぁ。だからこそこうして慰労をもらってるわけだし……」
「と言っても、半分はやつらの監視だろう? 他に人がいないからまだ気楽だが」
「さすがに一般人のいる海で、放し飼いにはできねえよな」
今もほら。誰が一番長く海を割り続けられるかゲームとか、天変地異の前触れみたいな遊びしてるし。
手伝って三人目の保護者。
「彼女も来たかっただろうな」
「しゃーないな。何せ海に行くって決めたのは昨日の深夜だったし」
「だいたい水着だって、急遽の準備だったじゃないか。
いくら空間転移で移動し放題だとはいえ、思い付きで行動しすぎだ」
「…………」
いや、ベルは昔からそうだよ。
事件と事件の隙間時間に、「あ、久々に火山が見たいのう」とか言い出して、とんでもスピードで俺を抱えて行くし。……火口まで。
というエピソードを語ってもアリスの気分が回復しなさそうなので、俺は話題を海側に戻した。
「え、えー……。あっ、水着。選んでくれてありがとうな」
「ん……、あぁ。
ふふふ。やはり私の見立ては間違っていなかったな」
うんうんと頷くアリスだったが、だんだん視線が熱くなっていく。
「……その、腕が、むちっているね。じゅるり……」
「お、おう……。変な褒め方ありがとう。アリスも似合ってるぞ」
「ありがとう」
アリスが着ている水着は、健康的な黒のビキニだ。
派手な装飾の無いシンプルなデザインで、胸元だけがシースルーメッシュになっている。そのためどうしてもメッシュ部分――――その奥に見える白い胸元に視線がいってしまい、非常にけしからんです、はい。
「軍に居た頃は海水浴なんて行く時間は無かったからね。初めての水着選びだったが、良いものがあってよかった」
「そっか。軍事演習とかでは、指定の水着だろうしな」
「それにレーヴァの街は大陸の中央だしね。付近に河や湖はあるが、大きな海が無かったため、海難演習はほとんど無かったんだ」
「なるほどな。……じゃあどうだ? 久々の海は」
「うむ……。いい景色だ。
快晴の空の元、穏やかな風が吹いていて、青い海が……、うん。ずっと割れっぱなしだね」
「あいつら加減を知らないのかよ……」
「まったく。耐久性の高い海を選んでおいて良かったよ」
「海に耐久性が高いとかあるの!?」
「そりゃああるさ。強いモンスターが生息している土地は、それらに負けないよう成長する。この辺りは岩や海底も、かなり頑丈なはずだよ」
「……へぇ」
「あっ……! まったくやりすぎだあいつら。
流石に生態系が狂いかねんからな。注意してくる」
「ママいってらっしゃい~」
ざくざくと砂浜を歩いていく、アリスの美尻を見送った。
ふぅと一息ついてたそがれていると、今度はベルがやってくる。
「クァハハハハ! 怒られてしもうたわい」
「嬉しそうだな~。そんなに海好きだっけ?」
「いや? ワシを叱り飛ばすニンゲンはなかなか居らんじゃろ? 嬉しくてのう」
「そっちか」
強いなあアリスママ。
将来は確実に肝っ玉母ちゃんになるだろう。
「こうしてはしゃげるのも、あやつが居るからじゃ。感謝しとるよ」
「ホント丸くなったなあお前」
「丸くなった自覚は無いんじゃがのう。ただ、ヒトの常識を理解していってるだけじゃ」
「常識ねぇ? 例えば?」
「うむ。その成果がこれじゃな」
言うとベルは、自分の胸をもにゅんと持ち上げた。女性にしては大きめの掌でも包み込めない双丘が、ボリュームたっぷりに主張される。
あまりにもインパクトが強すぎて、胸のことじゃなく、水着のことを言っていると理解するのに数秒かかってしまった。
「水着……みたいに変化させたのか。すげえな」
「クァハ」
ベルの今の格好は、いつものバニーガール姿ではない。
もちろんバニー化はそのままだ。そもそも解除できないし。
だがベルは布面積をかなり削り、まるで水着であるかのように形状を変化させている。
頭の耳と首元の付け襟、手首のカフスはそのままなので、さしずめ水着バニーである。
「『海では水着』というヒトの常識を強く意識したことで、このように衣服を変化させることが出来たのじゃ」
アリスと同じようにビキニタイプになっているため、普段はあまり見えないベルの腹部があらわになり、非常にいけないものを見ている気分になる。
俺はこほんと煩悩を打ち払う。
「そ、そんなことが出来るんだな。それじゃあ街でも普通の衣服に?」
「いや? バニーで居っても問題ないじゃろ? これまでもそうじゃったし」
「なんでだよ」
「もうそこの常識は覆らん。それくらい――――あのかっこうで主と過ごしておるしのう?」
「うぐ……、ソ、ソウデスカ……」
「なんじゃ。理論がばがばなのに抵抗せんのか」
「う、うるさいな」
詭弁でもそんな嬉しい事言われたら、否定したくなくなるだろうが。
少しは俺の男心を分かってほしい。
「クァハ。まったくぬしは愛い奴じゃ」
静かに笑ってベルは、俺の唇に唇を重ねた。
ほのかな磯の香りが口に広がる。
「バカンスでおっぱじめるのも無粋じゃ。続きは……また今度じゃのう」
「オゥフっ……」
「ではのう。……これ以上いちゃついておったら、ワシも理性が飛びそうじゃ」
身体を寄せられ、柔らかく指と指を絡ませる。
熱い吐息が、耳にかかった。
「水着どころではなくなってしまうやもしれんしのう♪」
「――――、」
耳元で響く声は、俺の脳を直接ぞくぞくと刺激した。
……これは、しばらく立ち上がれそうにありませんね。
去って行くベルの後姿を見ながら、俺は胡坐から体操座りの姿勢に変えるのだった。




