27.帰る場所
ルーチェリエル事変が完全収束してから、丸一日が経過した。
「――――というわけで、家です!」
「「「「「イエーイッッ!!」」」」」
良く晴れた日――――とは、まったく関係が無い天界にて。
ついに俺たちの家が用意された。
「お~……」
家というよりは神殿といった印象で。大きさは田舎の小学校くらいはある。
広くてでかいと聞いてはいたけど、実際に見ると圧倒されるなぁ。
「いや~、何回来ても慣れんわ天界」
「あんま良い印象ないしね~」
魔剣二人はややそわそわして辺りを見回している。
俺が「そうなのか?」と質問すると、頭をかりかりかきながらヴァート(黒ギャルのヒナの方・昨日決まった)が答えた。
「めっちゃ前に封印されてたコトあんのさ~。あんトキの魔法がピンチすぎでワロえんかったし。一時期ギスってたんだよね天界と」
「そそ。あんときの女神くそやべーやつだったから。しごできすぎてマジぴえんだったんだが?」
「それオブそれ」
「……ギャル語で言われるといまいち脅威が伝わりにくいな」
だけどそうかぁ。
この二人が苦手意識があるのなら、天界に居を構えるのはマズったか?
俺の質問に、しかし二人は「んにゃ」と首を振った。
「だいじょぶだいじょぶ。そのうち慣れるっしょ!」
「ヘリぴはイイやつだしね~。魔界に来てもよきよきだし」
「いやそれは盛りすぎ(笑)」
「マ~? いけそじゃね?」
「他の魔剣とエンカしたらそっこーギスりそうじゃない?」
「あーね」
「……うん。大丈夫そうなら良いか」
半分も意味が分からないけど。
とりまギャル二人はよきよきっぽ(使い方あってるか不明)。
「しかし大きい家だなコースケ」
「おうアリス。
いや、中は空間拡張されてるらしくてな。これの十倍は広いらしいぞ」
「……どうしてそんな大きな物件を用意させたんだ?」
「俺じゃ無いよ。ベルだ。
ヘリオスちゃんとベルで、いつの間にか話を進めてたらしくてさ。……家主は俺なのに」
「そういえばこのパーティの主導権は、あくまでもベルとヘリオスちゃんだったね」
「俺も忘れそうになるんだけどな」
まぁただ。
その主導権のことについては、今度あらためてヘリオスちゃんから通達事があるらしい。
神が落ち着いたら話すってことだったけど、そんな大きな変更があるのかな?
「では入ってみようかのうコースケ」
「そうだな。よーしみんな、入るぞ~」
天界だからなのか、俺にとっては空気もうまい。基本的には快晴らしいし。
最高の環境と言えた。
白を基調とした壁と廊下に、ところどころ邪魔にならない場所に神聖な装飾がついていた。
なんかこう……、歩くのに抵抗があるな。
「最初だけですよコースケさん。じきに慣れます」
「まぁ……、新築ってそうなのかもしれないね」
ヘリオスちゃんに案内されながら、神殿の中を歩く。
うん。余裕が出来てきたら庶民的なものを置いてみよう。ちょっと中和されるかもしれない。
「これ……。部屋数どれくらいあるの?」
「細かい部屋も合わせて三十はありますね。
ただ、ほぼ概念の空間なので、繋げて大部屋にすることも出来ますし、増やすことも出来ます」
「やりたい放題かよ」
「敷地面積も増やせますよ!」
「やりたい放題かよ!」
家と呼ぶにはあまりにも何でもありすぎた。
戦隊モノの秘密基地でも、もうちょっと制限があるぞ。
「まぁ……、これまでのご褒美みたいなものですよ」
「そうなの?」
「本当はもう少しだけつつましやかだったんですけどね。
でも神様――――ルイン様が、これまでの功績を考慮してくださいまして」
「それでこんなやりたい放題の空間に?」
「はい」
「使いこなせる気がしねえな……」
「そこは私も手助けしますのでご安心を。
それに天界ですからね! セキュリティは万全です!」
「たしかに……」
俺はこちらの世界では、厳密に言えば無職だ。
「無職の四十代男性、住居は天界なんですけど。つったら、確実に不審者扱いだな」
「もしくは本物のアレかと思われますね!」
「笑えねえYO!」
はてさて。
そんなこんなで小一時間ほどいろいろな部屋を見てまわり、なんとなくみんなの部屋割りが決まった。
「寝室は別にすることも出来ますが?」
「とりあえずは今のままでいいかな~。手狭になってきたら、そのときにでも」
「分かりました」
「アタシは二部屋~♪ 衣裳部屋べつにできるとか、マジ悪魔ってる☆」
「ありがてぇよね~」
ヒナとヴァートはのびのびと使うみたいだ。
それでもぜんぜん部屋数は余ってるからな。俺もゆくゆくは使ってみるかな。
「ベルもアリスも決まったみたいだし、ヘリオスちゃんもオッケーだな?」
「はい。まぁ私は天界で常駐しなければならない場所がありますので。あまり家にはいないかもしれませんが」
「そうだね。でも、いつでも自由に帰ってきていいからね」
「勿論です!」
ぺかーっと笑うヘリオスちゃん。
彼女も彼女で、これまで決まった住居というものは構えていなかったらしい。
初の家・部屋は嬉しいよね。
「それじゃあ招集あるまで、各々自由にってことで。
地上に行きたいやつは、俺かアリスかヘリオスちゃんに声かけてくれ」
「「りょ~」」「うむ」「あぁ」「かしこまりました!」
と、それぞれ返事をして散っていく中。
「…………」
ここに来てから若干気まずそうな、ルーチェリエルが残っていた。
「どうしたルーチェ(略称になった)。昨日のベルからのいじり疲れでも残ってるのか?」
「そっ、そんなんじゃないわい! というかどういう心配の仕方じゃ包●!」
「ほ、包●じゃねえし! 仮性だし!」
「いや知りとうないわ!」
ぷんすこ怒るルーチェ。
だがその態度もすぐに沈下し、銀の綺麗な髪を指でいじりながら言う。
「いや……。なんで当たり前のように、わらわを仲間扱いしておるのかと思うてのう」
「今更だな……つっても、まだお前捕まえてから二日くらいしか経ってないのか」
改めて考えるとだいぶ急展開だな。
「まぁこっちも色々あったからなー。ヒナが二人に増えたり神様と話したり。
あと天界絡みの超展開とか、わりとよく起こるからさ。得体の知れない幼女が仲間になっても、別に今更というか」
「いやおかしいのじゃ!?」
「そう言われましても」
実際、瞬間的にはびっくりしたけど。
一日もあれば異常も日常だ。
「俺も、わりと修羅場くぐってきたからなー……。いや、強制的にくぐらされてきたからなあ」
「そこらへんに居る冴えないオッサンかと思いきや、お前もおかしい側のヤツじゃったか……」
「いやいや俺は普通だよ。ベルのおかしなところと比べたら、一般人もいいところだ」
「伝説の魔竜の在り方と比べとる時点で、おかしなことしとると気づくんじゃ」
言われてみればそうかもしれない。
それはともかくルーチェのことだ。
「お前だけ部屋選んでないけど。希望の間取りとか無いのか?」
「物理ではなかったわらわにとって、部屋を選ぶというのは難しいのじゃ」
「感覚的な問題か。あれ? でもダンジョンの玉座の部屋は、けっこういい感じじゃなかったか?」
一瞬しか見てないんだけど。
それでも、かなりきらびやかに作ってあったようにも思う。
「アレは……、魔王城の再現よ。その部屋の中で、手ごろな椅子のあった場所にこしかけておったに過ぎん」
「そうだったのか」
「ちなみに魔王城のことなんぞカケラも知らんぞ。
わらわの神級の魔力に充てられて、ダンジョンがよりヤバめの変貌でもしたんじゃろ」
「投げやりだな」
「昨日から散々質問攻めじゃったからのう。嫌にもなる」
「なるほどな」
じゃあ気になってる、「なんで俺をイケメンにしたのか問題」は、後回しでいいかな。
俺はため息と共に「それじゃあ」と切り出して、ルーチェを連れまわすことにした。
「お前の居心地の良さそうな部屋、改めて見繕おうぜ。
なんだったら魔力で変化させてもいいし」
「……お前、さっきのわらわの話、聞いておらなんだか?」
「なんだよ?」
「わらわの魔力に充てられ、ダンジョンが変貌したんじゃぞ。それはつまり、建物に変化を与えてしまうかもしれんということじゃ」
「そうだな。まぁでも、少しくらいなら大丈夫だろ」
「……少しで済まんかったら?」
もし。
もしも。皆の部屋にも被害が出てしもうたらと。
彼女は俯いて言った。
「わらわは『魔法』じゃ。今はこのカタチを成しておるが、何に影響を与えるか、自分でも分からんのじゃぞ。
そんなものを居住区において――――お前は。お前らは……」
「じゃあそのときは、一緒に謝ろうぜ」
「な……」
「今、ルーチェがここに住むことを、俺がオッケーを出した。これで責任は俺とも分配されたわけだろ。
お前が何か起こしたら、俺も一緒に謝るよ」
「お前……」
「いや、建物ごと爆破とかされたら、流石にどうしようもないかもしれないけどさ……」
俺の持ち家とはいえ天界側が用意してくれたものでもあるし。
せっかくの好意を爆発で無くしましたは、ちょっとカンベンしてほしい。
「……じゃあ、選ぶ」
「ん、じゃあ行こうぜ」
そうして、俺とルーチェは再び部屋を回った。
「こことか丁度いい広さじゃないか?」
「中途半端に狭いのう」
「そうか? もうちょっと広い方がいいとか?」
「いや、どっちかにしてほしいわい。
広すぎるか狭すぎるか、極端な方がいい」
「ふうん?
……内訳聞いてもいい?」
俺の疑問にルーチェは、「そりゃあ」と平べったい胸を張って答える。
「広すぎるのが良い理由は、わらわの偉大さを抱える部屋として適しておるじゃろ?」
「なるほど。……じゃあ狭すぎるのは?」
「狭い部屋におしこめられておると、なんだか虐げられとるみたいで興奮するじゃろ?」
「変な性癖植え付けられてる!?」
「失礼じゃのう。別に昨日ヤられた、箱に押し込められて言葉攻めされたのなんて、気に入っておらんじゃ!」
「完全にソレのせいじゃねえか! つーかなんだその特殊プレイは!」
「ちなみに魔竜の言葉よりも、女神の方が言葉がエグかったのじゃ」
「すっかり仲良しですね!!」
まぁ……部屋のこだわりを聞けて良かったよ。
「じゃあどうすっかな。天界は、日中時間はずっと晴れてるらしいから、一階だろうが五階だろうが日当たりはあんまり関係ないし……」
「……なら、四階にするのじゃ」
「お、良さそうなところあったか?」
小さな背中についていく。
するとそこは、大きめの倉庫にしようと思っていた部屋だった。
「どうじゃ?」
「あぁいいよ。みんなには、倉庫の場所は違うところにするって言っておくから」
「うむ。で、多少ならいじってもいいんじゃな?」
「……ま、影響出過ぎないようにな」
「他には迷惑かけんわい」
「おっけ。……と、ヴァートから呼び出しだ。地上に買い出し行きたいって。ルーチェも来るか?」
「いや、部屋をいじっておる。好きにいちゃついて来い」
「そか。それじゃ」
軽く手を振って部屋を後にする。
後ろから「あり……」と声が聞こえた気がしたが、振り返らないでおくのがいいかもなと思った。
…………。
……。
で、その夜(天界も地上の特定地域に合わせているらしい)。
「はぁ~、今日はさすがに疲れたなぁ。もう寝ちまおう」
まさか買い物ついでに寄った武器屋に、この世に何本かある魔剣――――のニセモノが展示してあって、ヴァートがめちゃくちゃ噛みついて屋敷を半壊させた挙句、本物の魔剣の一本が召喚され、操られた武器屋の主人とガチバトルを繰り広げることになるとは思わなかった。
どうにか解決できてよかったなあ。
「それじゃおやすみー」
灯りを消して布団に潜り込む。
「…………ん?」
なんか。
足元があったかい。
「あったかいっつーか……、神聖?」
覗き込むとそこには、しゃなりと揺れる綺麗な銀色が見えた。
布団の中でも輝く、綺麗な銀髪。
「ル、ルーチェ!? おいおい、どうやってここに!?」
各部屋は、魔力と生体反応によるオートロックのはずだ。本人以外が開けることは出来ないように調整している。
「ドアは、のう。じゃが、天井ならどうかな?」
「は……? って、うおっ!?」
広い部屋の隅を見ると、そこには人ひとりが通れるような穴が一つ。
上階とをつなぐバイパスが設置されていた。
「この上は……、あっ! 倉庫予定の……っていうか、お前の部屋!」
「うむ。多少いじってよいとのことだったのでなぁ」
「いやいや、それはお前の部屋だけの話だよ! 俺の部屋までつなげるのはダメだろ!」
「ある程度の影響は、住人も許してくれるやもと言うたのはお前じゃろうが! じゃから許せ!」
「めちゃくちゃ言ってんなおい!?」
押し出そうとするも、ばたばたと暴れて出て行こうとしてくれない。
そしてぽつりと言葉をこぼした。
「……ひとりで眠る、やり方が分からん」
「……お前」
「じゃから時々でよい。……わらわと共に、寝よ?」
「……そこで語尾を上げるのは、反則だろ」
目元を覆ってため息をつく。
…………………………相手は幼女だ興奮するな。
「……分かったよ。とりあえず、今日だけだぞ」
「うむ!」
ぽんぽんと頭を撫でて、今度こそ横になる。
ほどよい疲労感と。
小さく暖かな温もりの中。
俺はまどろみへと誘われるのだった。
「ちなみに。幼女とするのなら短●の方が都合が良いと思うのじゃがどうか?」
「さっさと寝なさい!」
まぁ。これがこの家での最初の睡眠だと思うと。
いい思い出にはなりそうにないですね。




