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26.不安定な世界



 それはもう丁寧にお断りさせていただいた次第だ。

 一言目の聞き返し。

 二言目の拒否拒絶。

 我ながら完璧なコンビネーションだと思う。


「そんなぁ」

「いや当たり前だろ……」


 普通に考えて俺が神とか。

 この世界ダメになるぜ?

 しかし呆れている俺に、ルインは「いや」と首を振った。


「違うんだよコースケくん。あのね。既にこの世界は、ダメになってるんだよ」

「は……?」

「もう僕一人じゃあ回らなくなってきててねぇ」


 それはやはり。コンビニの雇われ店長が、売り上げやシフトを嘆くかのような言い回しだった。

 危機感が伝わってこないが、言葉は理解できる。


「多忙って言ってたけど……。そんなに大変なのか?」

「本当ならそこまで大変じゃあないんだよ。でもここ二千年くらい、イレギュラーでねぇ」

「そうなのか」

「うん。理由は色々あってさ。

 本来なら三、四人の神で管理するんだけど、今は僕一人しかいないとか。昔に比べて百倍くらい異常魔力スポットが観測されてるとか。いい具合にニンゲンも知恵をつけてきて、各所で悪さを企んでるとか。そういうの、重なっちゃっててね」

「うぉ死ねるなソレ」

「神の場合は自己封印からの~再構成だから、厳密に言えば死ぬことは無いんだよ」

「あっ、軽口なので気にしない方向で……」


 合いの手すらも入れられねえよ。


「僕もさ。この間まで一般人だったきみには荷が重いって分かってて言ったよ。言ってみたんだよ」

「それにしたって何で俺だよ」

「だってきみ、魔竜と魔剣と、疑似的にだけど神代の魔法も管理下に置いてるでしょ? しかも地上で動かせる人間も部下にいる。

 ガワだけ見たら、それは十分神になれる資格があるんだよ」

「……なるほど」

「強いて言えばきみ自身の討伐功績くらいだけど、そんなのおつりが来るくらいの戦果だしねえ」


 いや苦笑されてもさ……。

 俺が突っ込むと、ルインは疲れ切った目を細めてため息をついた。


「まぁ……。それくらい世界はヤバイし、僕も摩耗してるってコトだよ」

「そうなのかぁ」

「さっきの話は忘れていいからね。

 ホントに、元から勤まりっこないわけだから」

「じゃあ言うなよ。煽りにしたってお粗末だぜ、それ」

「神は弱音を吐くわけにはいかないからねえ。聞いてもらいたかったのもあるんだよ」


 う~んと伸びをして、ルインは空を見上げた。


「さてと、それじゃあそろそろ行こうかな。

 最後に辛気臭い話をしちゃったね。ごめんごめん」

「……別に」


 俺に言われたってさ。

 俺は、何の力も持ってないわけだから――――


「…………いや」

「ん?」


 胸に手を当てて。

 三十秒だけ考える。


 俺のこれまでの旅は。

 楽しかったか?

 面白かったか?

 最高だったか?


 答えは――――イエスだ。


 でもそれはきっと。

 偶然にも転移して。ひょんなことから力を授かって。みんなが俺に着いてきてくれて。

 支えて来てくれたから、笑ってられたんだ。

 そして俺は、これからも。

 このスタンスを変えるつもりは、無い。


「……だったら」

「コースケくん?」


 俺は。

 力を持つ者として、改めて神と向き合う。


「神にはなってやれないけど。今以上に働くことは、出来るぞ」

「え……」

「俺には最高の仲間たちがいる。だから遠慮なく言ってくれ。

 何をしたら、お前の助けになるんだよ?」

「…………は、ははは、」


 神は。ルインは。

 夕暮れの中で、とても弱々しく笑っていた。

 精悍で、ややくたびれているがイケメンで、黒ずんだ目元が、まるで少年のようにたわむ。


「……ニンゲンは、本当にすごいね。

 こういう強さに、神は助けられてきたんだよ。どんな時代も」


 そして彼はすっと右手を差し出す。

 俺がそれを握り返すと、真っすぐな瞳で見返してきた。


「この世界の神、ルイン・オルアニア・セティ・パディガンが、正式に命ずる。

 異世界より賜りし貴重なる魂、コースケ・フクワリよ。

 世界を震撼させる奇想天外な事変を、我に代わり鎮静化させよ」

「ハッ!」

「此度の命を持って、同、コースケ・フクワリには。魔竜並び、それに準ずる存在を、自由にするための全権を信任するものとする」


 ルインは目を閉じ。

 そして再び、疲れた瞳で俺を見た。


「じゃあ……、任せたよ」

「あぁ。……そっちも仕事頑張ってな」

「はは。そうだね。

 今度は飲みにでも行こう」

「……っ、ははははっ! そうだなぁ!」


 仕事仲間と別れる時の会話って、こんな感じなのかな。

 一しきり笑い合った後。

 ルインは今度こそ、天界に戻っていった。




 こうして。

 俺は神と、仕事仲間になり。

 新たな目標が生まれた。


 俺がこの世界で面白おかしく生きていける基盤を作ってくれた、ルインのために――――

 最高の仲間たちと、世界に安寧をもたらしてやると。







「おうコースケ、戻ったか」

「戻ったかじゃねえよ! どういう状況だこれ!?」

「クァハハハ!」


 拠点(ホテル)に戻りそこで見た光景は。

 四つん這いのルーチェリエルにどしりと腰掛け、尻をべちべち叩くベルの姿だった。


「ほれ泣け!」

「ふぐっ……、ひぐっ……! せ、世界で一番最恐の生物は、ベルアインさまなのじゃぁ~……。た、たかだか神と魔王の力を吸っただけでイキってて、すみませんでしたぁぁぁ~~~っ! あひぃ……っ!」


 世界に安寧をもたらそうって伝えようと思ったのに!

 大魔王みたいなのが身内にいるんだが!?


「あ、おか~コーにゃん」

「てめバックレかましてんじゃねえぞ。ダベってねえで復興やれや」

「ごめんごめんヒナ二人。ちょっと神様と話しててさ」

「コースケは時々、無自覚に変なことを言うよね」

「まぁコースケさんはベルアインと関わって、少なからず捻じれましたからねぇ」


 うるさいわよ常識(アリスと)人二人(ヘリオスちゃん)

 あと、黒ギャルのヒナが意外と真面目なことに、わたくしギャップ萌えを感じております。


「というか、私のところには駆け付けてくれなかったなコースケ」

「え、怒ってる?」

「コースケさんコースケさん」

「ヘリオスちゃん? アリスどうしたの?」

「いやほら、ルーチェリエルの狙いがアリスさんだったでしょう? なので彼女の元にはとんでもない力を持った魔法体がわんさか現れてたらしくて」

「そういえばそうだった! いやごめんアリス! 怒るなって!」

「べっつに~?

 ただ一応私としても、苦戦したり覚醒したり、集団から攻められてちょっと性癖が歪みそうになりつつも、内なるバニーパワーに更なる磨きがかかって覚醒の更にその先へいったりしたんだが、それも見てくれてないなーと思っただけだ」

「何その面白そうなイベント!」

「見てくれてないなーと思っただけだ! ぷい!」

「ふてくされてるアリスカワイイ!」


 でも若干めんどくせえ!


「俺だって駆け付けたかったんだけどさ。ヘリオスちゃんから大丈夫そうだって報告があったから」

「コースケさん。それでも活躍は見てほしいんですよ乙女ですから」

「だったらそう言ってくれない!? 四十のオッサンに乙女心とか分からないから!」

「アリスさんの、ちぎっては投げちぎっては投げ、しかし時々組み伏せられ『くっ、ここまでか! 殺せ! いや、だが死なん!』、からの一網打尽の広範囲攻撃を見てほしいという心が、分からないんですか?」

「うん、そんな乙女心は聞いたことないかな!」


 闘争心はいいことだけどね!


「あ~……それで、コースケさん」


 瞬間的には元気だったヘリオスちゃんは一転、やはり真実の部分を気にしているのか、小さな声で耳打ちしてきた。


「ん? あぁ、聞いたよ、ルインから」

「う、うわわ……、神様を呼び捨てに……」

「いやアイツからこれでいいって」

「は、はぁ……。それで、その……」

「あぁうん。不問だよ。というか、ベルとの間で納得してるんだったら、気にしないさ」

「そ、それは……」

「だからさ。気にせずさっきまでの感じでオッケーだよ」

「……コースケ、さん」


 ヘリオスちゃんの表情に、先ほどまでの笑みが戻る。

 頬がだいぶ赤らんでいるけれど……。俺の海よりも広い寛大な心に、打ち震えているんだろうなあ。さすが俺だ――――


「尊厳破壊パ~ンチ!」

「人権無視き~っく」

「おごふっ!?」


 どやっていると、背中からダブルで攻撃を受けた。

 白ギャル明るく、黒ギャルはへらへらと笑いながら、そのまま俺を押し倒す。


「そっちばっかりイチャイチャしてんな~!」

「あーしらにもかまえし。この天然タラシが」

「俺がいつタラシた!?」

「無自覚とか一番タチわり~んだけど」

「おけおけ。やっちまおうぜ~♪」


 おりゃおりゃと、後遺症が全く残らない……大ダメージを与えられる。

 何この陰湿な攻撃! 世界最強の武器こわっ! ヒトへの攻撃方法を熟知してる二人組怖すぎるんだがっ!


「それでなコースケ、私はそのとき魔法体に向かってこう言ったのだ! 『私の身も心も自由に出来るのは、我が主人であるコースケその人だけである!』と! おいきいてりゅのか」

「聞いてねぇっつーかさっきから語りっぱなしだったの!? そして何で泥酔してんの!?」

「あ~、アリっちゃん酒弱そだったんで、あーしが飲ませといた~。ウケるよね」

「黒ヒナ!? いやいや、言ってもアリス、そこまで酒弱くないだろ!?」

「あーしの魔力流し込んで、度数五倍にしといたから」

「酔わせようという確固たる意志!」

「ウケるよね」

「その言葉万能じゃないからな!?」

「トゥトゥってんね~」

「トゥトゥ……ってなに?」

「あぁ。王剣・トゥトゥリアスのことですね。とても真っすぐで力強いですが、若干それがめんどくさいねという意味だと思います」

「分かるかそんな人外常識!」

「聖剣に例えられるよりマシだよね☆」

「あいつまじヘラるかんね。メンタルクソザコなのもきゅいって思ってっから。

 撃ち合ったときもワンコミすぎてマジガン萎えだったわ~」

「もうギャル語なのか人外言葉なのか判別できねえ!」

「ちなみに全部ギャル語だよ☆」

「おいコーしゅケ、わらひの名誉のふしょーをみろ! おっぱいの下にしゅごいのあるんらぞ! ほらほら!」

「クァハハハハ! ほれ泣け! もっと泣け! 天界由来のモノを虐げるのは、やはり気分いいのう!」

「ぶふぅぅぅ~~ッ!! わた、わたしは……、下級のメスガキ光魔法ですぅぅぅ~! 深淵なる者に逆らってごめんなさい~~~~ッ!」

「ベルりん何アピさせてんだよ~」「あ~うっせ~。……ちょいほかってくるわ」「てらりー」「えへへ、コースケさんコースケさん! 神様と他にどんなお話したんですか!?」「おいコースケ聞いているのか!」「分かりやすく! 分かりやすくですよ!」「ひぎゃう! ピンヒールで踏まないで! こ、これ以上めざめちゃうとぉ!」「(激ワロ)」「がんぶ」

「クァッハハハハハハハハッッ!!」

「………………………………」


 ……ごめんルイン。

 このメンツで本当に大丈夫か、不安になってきたわ。








【読者の皆様へ】

 お読みいただきありがとうございます! 第三章本編、これにて決着です!

 明日より番外編開始です。もうしばらくお付き合いください!

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