25.むかしむかし
「えっとね。
魔竜・ベルアインはその昔。
人々を苦しめていた。
しかしその真実は、人間と称する悪魔に騙され、人々を襲うよう誘導されていたんだよ。
そのせいでベルアインは天界に幽閉されることになったんだけどさ。
でね。
そう仕向けたのが何を隠そう、ヘリオス――――の、生みの親の悪魔だったんだよね。
もちろんヘリオスはこのことを知っているよ。
そして知った上で、作戦に加担しているよ。
効率が良いからね。
その方が自分にとっても都合が良くて、分かりやすかったらしいから。
彼女はね、地上で功績を上げると天界に招かれるという隠しルールを、幼いながらに見抜いていたんだ。
だから自分が天界に招かれるよう、調整していた。
功績を調整していたんだ。
だから。
彼女の思惑はここで終わりじゃない。
策略は終わってない。
今のままだと、魔竜を人間にけしかけた悪魔で終わってしまう。これじゃあ天界じゃあなく、魔界の方に行っちゃうからね(笑)。……ギャグ伝わってるかな? わかんないか。そうだよね、ごめん。
それでさ。
彼女は魔族と人間のハーフみたいなものなんだけど、このときまでは悪魔側に加担してたんだ。
そして作戦を実行する。
今度は人間側につき、ベルアインを退治するよう仕向けたのさ。
あぁ、退治と言っても、酷い事ではないよ。物理的な攻撃ではない。
その方法は――――布教さ。
きみの世界にも宗教ってあるだろ? 良い悪いは置いといてさ。僕としては、信じる神を持っていることは素敵なことだと思うんだけれど。……おっと、話が逸れそうだね。ごめんごめん。
まぁその。信仰心とかと似たようなものさ。
恐怖の、伝達。
世界中の人々の中に、魔竜・ベルアインの恐怖のおとぎ話を広めた者。
それが、女神になる前のヘリオスというわけさ。
なんだそんなことかって思った?
意外と大したことしてないじゃんって? どうかな。僕としてはきみの表情はそういう風に見えるけれど。
でもさ。
思い出してよ。
ベルアインの幽閉は、千年単位だ。周期と言っても良いかな。
千年で終わらなければ二千年。二千年で終わらなければ三千年と、終わりのない幽閉刑が施行される。
最初の千年目できみという存在が現れてくれたのは、ラッキーだったと思うんだよ。ベルアインにとっても、ヘリオスにとってもね。
おっと、また逸れたね。いや、先出ししちゃったが正しいかな。
ともかく。
魔族混合人間種・ヘリオスが、人間界に魔竜の恐怖を広めたこと。
それはつまり、ベルアインの罪を重くするということなんだよ。
だってそうだろう?
ベルアインが暴虐の限りを振るったのは、世界中に対してではない。広い範囲ではあったけれど、世界の半分にも満たない地域だ。
だけどあの魔竜は、世界中で恐れられた。
この噂の布教――――伝導が無ければ。ベルアインの罪はもっと軽いものだっただろうね。
とにかく。
彼女は。ヘリオスはね。
世界中の人々に恐怖を伝えたという功績を称えられ、死後、女神になったんだよ。
まぁ死後と言っても、あの姿の年齢の頃。十六歳の頃なんだけどね。
え?
あぁうん。そうだよ。
その後ヘリオスは気づいたのさ。
自分がどれだけベルアインという存在に対して、酷い行いをしてしまったのかってね。
魔竜にも意志はある。意識はある。人格が、あってしまった。
この世界で懸命に生きる人たちと、なんら変わらない存在なんだと――――そのときにようやく気付いたんだ。
分かりやすく、分かってしまったんだ。
そう。
だから彼女は自害した。
責任を取るつもりでね。
でも皮肉だね。
そのとき既に彼女は、天界に招かれる条件をクリアしていた。
そして死んだそのときから。
彼女は女神見習いになったのさ」
「それからは、まるで懺悔をするかのように働き続けた。
摩耗して摩耗して摩耗して。休む間もなく八百年。世界のために稼働し続けた」
「ヘリオスちゃん……」
「この世界は不安定でね。魔王が居なくなった後も、『よくないもの』が現れる。
それをどうにかする役割に、彼女は就くことになった」
神様――――ルインと話を始めてから一時間弱。
そろそろ太陽が沈みかけていた。
ベルたちみんなはゆっくりしているのだろうか。それとも街の復興を手伝っているのだろうか。
「それで、俺を使うことにしたってことか」
「たまたま、だけどね。異世界から紛れ込んでくる魂なんて、百年のうちにあるか無いかだ」
「ふぅん……」
聞きたいことや疑問は残るけど、これ以上知っても仕方がない部分もありそうだ。
多忙な神様の時間を、これ以上奪うワケにもいかないしな。
「最後に一つ。
このこと、ベルは知ってるのか?」
「知ってるよ。きみという魂が現れる前から、伝えていたことだ」
僕と三人で話したんだよと、何故か若干褒めてほしそうな顔をするルイン。
俺が「え、偉いですね……?」と若干困惑しながら言うと、照れくさそうに「神様だからねえ」と頬をかいた。労いポイントがよくわからん。
とにかく。
「じゃあ――――この話は終わりだよ。
当人たちが納得して、それでも一緒にいるんだから。これ以上、俺は何も言うことはないさ」
「きみだって当人だと思うんだけどねえ」
「いいんだよ。話しがややこしくなるから。部外者でさ」
ヘリオスちゃんは、罪悪感を持っていた。
それを悔いていたし、そしてベルはそれを許している。
じゃあこの話は終わりだよ。
俺は、今二人の仲が良いのであれば、それでいい。
「そっかそっか。きみはいいヤツなんだねえコースケくん」
「ま、そんなところかな~」
ちょっとは調子に乗っておこう。
これまでの人生で、褒められることなんて全然無かったからな。多少は。
「じゃあ褒めついでに。こちらも最後だ。
ちょっと提案してもいいかなぁ?」
「ん? なんだ?」
ルインは変わらない調子で、「明日シフト変わってもらえる?」くらいのテンションでこう言った。
「代わりに神様やってくんない? 疲れちゃった」
「なんだって?」




