24.来訪
「ではコースケさん! もっとびびび~っとやっちゃってください!」
「お、おう……! それ~……!」
「ひぎゅうううううッッ!!」
街の外にて。
ヘリオスちゃんに光のロープで縛られたルーチェリエルに、俺はバニービーム(仮)を与え続ける。
彼女の計らいにより、人除けの魔法も発動してくれている。
太ったオッサンが幼女を虐めている構図だからな……。見られたら言い訳ができねえ。
あ、ちなみに今は、俺はバニー姿じゃないからな! 元の商人みたいな服に戻ってるからな!
「う~ん流石は神の魔法。一筋縄ではいきませんねえ。引き続きゴー!」
「ま、まだやるの……?」
「勿論です! 生意気なメスガキはしっかりとしつけますよ!」
「その通りなんだけど言い方!」
何でも分かりやすく言えばいいというものでもないよ!?
「まぁやるか……。それ~……」
「ぎゅあああああああッッ!! あ、あへ…………、」
幼女であへはやばい気がせんでもないが。ともかく。
今行っているのはですね。俺の仮装着の能力と、彼女の天界の力を使って、ルーチェリエルを管理下に置く作業なのです。虐待じゃないのであしからず。
「う~ん……。しかしコレ、大丈夫かぁ?」
「心配ッ! しながらッ、ギぃっ! ヘンな魔法ッ! 打つ、なッッッッ! ぎひぁぁぁぁぁッ!!」
目の前でばちばちと変化は進んでいく。そして……。
「ぜは……、ぜ……は……、あ……」
銀髪幼女はぐるぐる巻きのまま、わりとエグめのバニー姿になった。
何故かベルたちよりも布面積が少ない。
へその部分ががっつり空いているし、股下も際どくタイツも無しだ。
「おそらく私の趣味が反映されていますね! 分かりやすい!」
「この子内側に何抱えてるんだろ――――あ」
そのセリフを口にした途端。
ギャグの空気は終わりを告げ、静かな風が俺たちを包んだ。
「えぇ。私のコト、ですね」
「ヘリオスちゃん……」
あのとき彼女が口にした言葉。
『伝説の魔竜・ベルアインを、騙し撃った英雄です!』
アレは、どういう意味なのだろうか。
「話しますよ、コースケさん」
「…………」
「それはもう、分かりやすく」
しかし。そう告げたあとも彼女は、なかなか口を開かなかった。
言い淀むヘリオスちゃんというのも珍しい。
この街に来る前。『分かりにくいからなかなか話せない』状態は見ていたけれど。それとは違う。
そんなにも話しづらいのなら、俺は……。
「無理に言わなくていいよヘリオスちゃん」
「コースケさん。でも……、」
「俺はきみのことを信頼してるし――――」
そう口にした瞬間だった。
俺の背後に、何かの影が現れる。
「その気遣いは無用だよ、コースケ・フクワリくん」
「え……」
「というか……、僕が話します。
今のままでは、ヘリオスは分かりやすい説明をしにくいだろうから」
「あっ……、貴方様は……!」
「や。ちょっと時間出来たから、おりてきちゃった」
不健康なまでにやせぎすの、見た目三十代くらいの男性。
背は高いが大柄というわけではなく、痩せた大地に不自然に実った蔦のような印象だ。
カッコイイ顔立ちをしているが、目元は黒ずんでおり、覇気は無い。
貫禄のようなものもないではないが……、どちらかと言えば、くたびれた中間管理職のようなイメージが先行する。
「アンタ……、神のオッサン!」
「ルイン様! ど、どうしてここに……」
「コースケくんに話したいことが出来てね。ちょっと時間ももったいないから、向こうの丘でさくっと話そっか」
首をこきりと鳴らすたび、腰まで伸びた黒緑色の長髪がさらさらと揺れる。
右頬から額まで横切る銀色の古傷をこりこりとかきながら、「行くよ」と言って俺の肩に手を置く。
「……と、」
瞬きした瞬間には、街を見渡せる丘にやってきていた。
何でもあり感がすごいが、これもこの神様にとっては何でもないことなんだろうな……。
「さて……と。いやぁごめんね。時間取らせちゃって」
「いやこっちこそ……です、よ? なんだか忙しいらしいことは聞いてたんで」
「世界の管理は忙しくてねえ。大神も今は、僕一柱しかいないんだよ。
あ、敬語使わなくていいからね。きみはこの天界のお客さんみたいなものだから」
「は、はぁ……」
まぁ、それじゃあ普通にさせてもらうか。
出来るかわかんねえけどな……。
「それじゃあまずは、ヘリオスのことを話そうか。あぁそれよりも先に、きみに天界の力押し付けちゃったことを謝罪した方がいいかなぁ? どうだろう?」
「いや、ヘリオスちゃんの方からで大丈夫っす、はい……」
「そっか。ならそうしよう」
ゆったりと話すわりに、どこかそそっかしい印象も付随する。腰も低いし。
偉いんだけど、どこか抜けてる中間管理職。
それが神様に対する第一印象で、久々に会った今も変わらずだ。
「あの子はねぇ。元は人間だったんだよ」
「そうなんです……そうなんだ?」
「うん。まぁ、人間だって言って、人々を騙してた子……が正しいかな?」
「うん……?」
「二千年前だったか、もしくは千から五百年くらい前の話なんだけどさ。一時期ニンゲンには二種類いてねえ。純粋なニンゲン種でない方が、彼女の種族なんだよ」
「いや二千年前と五百年前だとだいぶ価値観違うだろ!? そこはっきりさせようぜ!」
「誤差なんだけどなぁ……。まぁでも思い出すか」
「しっかりしてくれよ……」
「えー……確か、ベルアインが封印されたのと、魔王討伐もあって……、あ、一時的封印とごっちゃになってるな……。世界の膜が三枚から二枚に減って……、魔界への道も防げなくなってからだから……。
あぁそうだ。世界が不安定になった時期だから千年前だ。コースケくん、千年前だよ。良かった良かった」
「ぜんぜん良くない単語が飛び交ってた気がするけど!?」
むしろこの世界が大丈夫なのか!? 俺とんでもない使命背負わされてない!?
「いやいけるいける。こんな僕でも救える世界なんだから。あはは」
「あははじゃねえよ」
ともかく。
「ヘリオスちゃんがなんか特殊なニンゲンだってのは分かったけど。そこから女神になれるもんなんだ?」
「うん。地上で凄いことをした子は、死後天界に召集される。
あ、人間でも何でも、魂は基本リサイクルされるんだけどね? 天界に上がると人格そのままに、天界パワーを受け取れるシステムなんだよ」
「分かりやすくてけっこうだけど、もしかしなくてもヘリオスちゃんの『分かりやすい思想』ってアンタ由来だな!?」
リサイクルとかパワーとか、ファンタジーじゃない単語が出てきすぎる。
分かりやすいけども。
しかし神様――――ルインは。俺のツッコミに苦笑して、静かに首を振る。
「違うよコースケくん。逆なんだ」
「は……? 逆?」
「僕がこうして分かりやすい説明を出来るようになったのはね。ヘリオスのお陰なんだよ」
「ヘリオスちゃんの……」
「うん」
ルインは口角を上げて。
疲れた目で、少しだけ遠くを見た。
「非情なまでの効率の天才。
魔族混合人間種・ヘリオス。その教えの恩恵だね――――」




